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コラム

建築をデジタル情報化する意義

2016.02.16

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

前回のコラムで建築のデジタル情報がどのように使われるかを考えることが、BIMの出口へ
と導いてくれると書いた。そこで今回は建築のデジタル情報化の意義を考えてみた。
まずAIの活用。山梨さんのコラムのように、世の中もArchi FutureもAI真っ盛りの感がある。
昨年12月の建築学会の情報シンポでもAIが取り上げられ面白く拝聴したが、幸か不幸か建築
分野ではその姿を目にすることがない。私は技術至上主義者だと思っていないが、技術が社
会を「いい方向」に変え続けると信じている。建築がAIの恩恵を受けるには、コンピュータ
が建築を認識する必要があり、建築がデジタル情報化されていることが必要条件だと思う。
今のところBIMモデルが、建築をデジタル情報で表現する最有力候補だと思っている。
 
次はコラム仲間の竹中さんの専門分野、ロボティックスの利用。ロボットの現状や可能性に
ついては、竹中さんのコラムをご覧いただきたい。将来、高度な施工にはロボティックスが
必要不可欠になると考えている。ロボットを活用するためにはデジタル情報が必須であるが、
それはBIMモデルをベースとするのが最適だと考える。
 
最後はナビゲーションの基本情報として。AIと並んで話題になっているのは自動車の自動運
転ではないだろうか。近い将来、自動車の自動運転が現実化し、渋滞と交通事故が激減する
ことを期待している。自動車だけでなくパーソナルモビリティの自動運転にも期待している。
パーソナルモビリティの自動運転では、屋内外を連続して移動できるようにしなければなら
ない。屋外の測位と空間把握はGPSとGISで可能であるが、屋内では別のシステムが必要で
ある。測位はWi-Fiや超音波、IMES, BLE(Bluetooth Low Energy)などさまざまな方式が
競っている。問題は、空間把握のために必要な建物の情報である。該当しそうなものは、
寡聞にしてGoogleのインドアマップしか知らない。屋内の自動運転には、インドアマップの
情報では不十分だと思われる。エレベータはどの階まで行くのか、目的地までにエレベータ
の乗換が必要なのか、ドアがどちらに開くのかなど、自動運転に必要なのに2次元のマップ
からは得られない情報がある。そこでBIMモデルが登場する。BIMモデルは空間把握のため
に十分な情報を提供してくれる。それは、自動運転だけでなく屋内でのナビゲーションでも
利用できる。
 
BIMモデルがなくても、AI用、ロボティックス用、自動運転用のデジタル情報を作ることが
できる。しかし手間がかかり不整合の蓋然性が高くなるというデメリットがある。BIMモデ
ルを中核とする方が合理的なのは明白である。また国際標準化が進んでいるというBIMモデ
ルの特徴は、さまざまなシステムと連携しやすく、新たなサービス、価値が創り出されるこ
とになる。最もその恩恵を受けるのは建築を利用する人だと考えているが、それが建築の価
値を向上させ、最終的にはオーナーに還元されることとなる。建築オーナーの全てがそのこ
とに気づいて、建築のデジタル情報化を求めてくる日が来ることを願っている。

      未来のパーソナルモビリティ  Syd Mead. “OBLAGON”. 講談社, 1985, 
      p122

      未来のパーソナルモビリティ Syd Mead. “OBLAGON”. 講談社, 1985,
      p122

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長