BIMデータの公開流通をブロックチェーンで
2023.10.03
パラメトリック・ボイス
東京大学 / 鹿島建設 和泉 智也
東京大学豊田研究室持ち回りコラムの第4回ということで、今回は鹿島建設建築管理本部よ
り博士課程へ修学している和泉が担当します(これまでの3回はこちら:①宮武さん
②中倉さん ③長友さん)。
私はいわゆる社会人ドクターで、平日のうち週3日間は鹿島建設のBIM系IT担当として関連
のIT基盤・アプリケーション等の開発・運用をBIMソリューション部と連携して行い、残り
の2日間は大学院生として研究活動に充てています。BIM系IT全般についても書きたいこと
はいくつかありますが、ここは研究室のコーナーらしく、私の研究テーマである「ブロック
チェーンによるBIMデータの公開流通」について紹介したいと思います(ただし、「ブロッ
クチェーン」という言葉は後半まで出てきません)。
ここで改めて言うまでもありませんが、BIMデータにはさまざまな利用用途があるとよく言
われます。FM、建物OS、ロボットOS、XR系のアプリケーションなどなど。BIMデータがそ
のまま使えるのか何かしら変換したものを使うのかはさておき、BIMデータを利用するシス
テム(プラットフォームやアプリケーション)は徐々に増えてきましたし、今後も確実に様
々な連携が増えていきます。すると、それらのシステムを使いたいエンドユーザーも増えて
いく、システムが使えることが建物の利便性を左右するようになってくる……。このように
考えたとき、IT担当者としてはエンドユーザー向けに便利なシステムを作ることに目が行き
がちですが、同時にデータ供給の仕組みも充実させなければいけないな、と思ったのが研究
の出発地点です。最終的にこの仕組みが整えば、不動産価値としてのBIMデータの流通や国
交省PLATEAUへの連携も視野に入ると思っています。
では、現状よりも多くかつ高品質なBIMデータがエンドユーザーに供給されるにはどうすれ
ば良いのでしょうか。推進制度、オペレーターの育成、作業環境導入のハードル、BIMデー
タそのものが持つ高い秘匿性など、克服しなければならない問題は多々ありますが、私が注
目しているのは「今の仕組みとは別にBIMデータの公開流通に適したリポジトリ(データの
保管・共有場所)が必要だ」ということです。「BIMデータの共有はCDEでやれば良いので
は?」という意見もありますが、現行のCDEは個々のプロジェクトや組織に閉じた運用を指
向してつくられているのでそうもいきません。また、建物の長いライフサイクルを考えると、
特定の組織や人が管理するプラットフォームにデータを置いておくこと自体がリスクである
とも捉えられます。いきなりプラットフォームの運用が止められたり、データを改ざんされ
てしまっては大問題です。このあたりでようやく、「BIMデータの公開流通は分散型のシス
テムで構成した方が良さそう」、という考えが出てきます。更に、データを継続して更新し
続けてもらうためには、データの品質に応じて制作者へ追加のインセンティブを与えていく
仕組みが欲しくなります。
間を端折りますが、上記の諸々の課題点を解決できると言われているのがブロックチェーン
技術です。ブロックチェーンの仕組みに関する解説はインターネット上にたくさんあるので
割愛するとして、その効果をざっくりまとめると、①データの来歴を半永久的にかつ改ざん
できない形で分散保管することができる、②特定の条件下で事前に定義したプログラムを自
動実行できる(「スマートコントラクト」が利用できる)、という2点が挙げられます。こ
れらの特徴が、グローバルにデータを公開しつつデータの真正性を担保したい、更にデータ
プラットフォームの寿命を長くしたい、といった需要にマッチしています。また、上記で触
れた「データに価値を持たせ、製作者に追加のインセンティブを与える」といった話は、NFT
アートの世界で既に実現されていますし、BIMデータに価値を持たせることそのものが、今
後、大変重要になると考えています。
と、ここまで調子の良いことばかりを書きましたが、もちろん問題点もたくさんあります。
データのアクセスコントロールはどうするべきか、大容量なBIMデータをブロックチェーン
で管理するにはどうすれば良いのかなど、BIMデータの公開流通にはブロックチェーン技術
が得意としない課題があるからです。これらを克服しつつ、実現可能な技術的手法や運用が
組み立てられるか(もしくは他により適切な技術があるのか)を見定めるのが、当面の研究
目的であり、悩みどころです。この研究を始めるまでブロックチェーン界隈に疎かったので
分からないことだらけですが、それでも、それだからこそ、取り組み甲斐のあるテーマだと
思っています。