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コラム

今までの10年、これからの10年

2023.10.05

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

去る7月29日、南三陸町うみべの広場のオープニングセレモニーが開催された。
このうみべの広場のオープンを持って、10年前から取り組んできた志津川地区グランドデザ
インが一区切りを迎えたことになる。
このグランドデザインは、津波で甚大な被害を受けた志津川地区のマスタープランからはじ
まり、商店街、橋、道の駅の設計監理、広場のデザイン監修、グランドデザイン実現に向け
たデザインのアドバイスと、極めて多岐に渡る業務を行った。

10年ひと昔とはよく言ったもので、プロジェクト開始当時はモバイルでの作業には限界が
あったものが、現在においてはモバイルでの作業でも、リアルタイムレンダリングによって
イメージを共有しながら、打ち合わせ内容をその場で反映させてクライアントあるいは現場
との協議が可能になった。さらには緯度経度を設定して、ある程度正確な日影の検証や風環
境の検証についても同時に可能になってきている。
設計ツールは非常に便利になり、それを実現する機材も揃ったが、この10年でも解決しきれ
ていないのが現場とのデータのやり取りである。BIMを取り入れている現場は増えたものの、
各社が使っているツールに縛られ、また2DCadに比較するとデータのやり取りにおいてまだ
不具合が多く、効率的な運用が出来ているとは言い難い。

このグランドデザインの中でも様々な関係先との協働を行ってきたが、鉄骨ファブとのやり
取りなど、ピンポイントでの3Dの共有や協働に成功した部分はあるものの、全体としては
やはりうまくいかなかった。
ソフトの高額化によって、特に中小の施工業者の現場には3Dモデルの浸透はうまく行って
いない。この問題は今の段階では施工管理者のある意味職人技ともいうべき能力によって
解決されている。ただ、これは長い経験によって培われている属人的な能力であり、日本ら
しい素晴らしさであるとともに、生産人口が減っていくこれからの10年においてはどんどん
失われていく能力であるといえ、施工レベルの大きな低下が懸念される。また、それと同時
に設計者の人数も減っていくということもあり、今までは現場の頑張りで調整出来ていたよ
うな内容について設計段階でより効率的に検証を行う必要が出てくるだろう。
そのためにも、設計者や地方の工務店、代理店など各所への安価な3Dソフトの浸透と生成
AIを始めとする新しい共通言語の共有が不可欠であると強く感じている。

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長