「クリエイティブメンテナンス」と
杉田宗研究室のビジョン
2023.10.10
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
2021年のコラム「クリエイティブメンテナンス」で紹介した、杉田兄弟が取り組んでいる建
物のメンテナンスに関する研究が少しずつ進展しています。今回はその現状を紹介しつつ、こ
の研究を通して更新された杉田宗研究室のビジョンについてお話します。
我々はネガティブなイメージのメンテナンスをポジティブに変えていく様々な研究や活動をま
とめて「クリエイティブメンテナンス」と呼び、以下の3つのテーマを立てて研究を進めてい
ます。
- デジタルメンテナンス(テクノロジー)
- メンテナンス指向デザイン(デザイン)
- シェアリングメンテナンス(コラボレーション)
まず、メンテナンスに情報技術を導入し新しい維持管理方法を検証している「デジタルメンテ
ナンス」は、2022年より広島工業大学の大谷幸三研究室と協働で建物内の自己位置推定技術と
BIMを組み合わせたBuilding Positioning System(以下、BPS)の開発を進めています。大谷
先生の専門はセンサ工学で、大谷研究室と杉田宗研究室の学生が中心になって研究を進めてい
ます。GPSの電波が届かない屋内での自己位置推定には様々な技術が開発されていますが、ま
だスタンダードになるような技術が出てきていない状況です。そこで、昨年はスマートフォン
などにも内蔵されているUWBを使った自己位置推定とBIMで作られた建物情報を連携させ、建
物内で稼働する移動体をコンピューター上に構築したバーチャル空間にリアルタイムで表示さ
せることに挑戦しました。昨年のデモの様子は丹野さんのコラムで紹介してもらいましたので、
是非そちらもご覧ください。
今年は新たに、フィールドロボティクスが専門の安鍾賢に加わってもらい、BPSから得られる
位置情報に基づいてロボットを制御するとともに、ロボットに搭載されたセンサから得られる
様々な情報を位置情報とともにストックすることに挑戦しました。また、今年のBPSには照明
器具や空調の維持管理情報も加え、人間やロボットが協働して維持管理をするためのデジタル
ツイン環境を作ることを目指しました。8月24日に実施したデモには、建物管理会社や建設会
社など首都圏を含め多くの方々に広島までお越し頂きました。
分野を超えた協働によりスピードアップする「デジタルメンテナンス」に加え、「シェアリン
グメンテナンス」の方もいろいろな形で展開が進んでいます。まず一つは、10月28日から開催
される「アーキテクツ・オブ・ザ・イヤー2023 Experiment of Collaboration / 協働の実験 :
コンピューテーション・エイジのデザインと建築」にシェアリングメンテナンスをコンセプト
にしたインスタレーションを出展予定です。来場者にインタレーションの世話をしてもらうこ
とで、常に変化しながら良い状態を保っていく作品です。
また、杉田宗研究室の卒業研究にも「シェアリングメンテナンス」をテーマにした研究が出て
きました。具体的には小中学校で行わる掃除や教室の改修に関する研究で、日々の清掃をもっ
と面白いことに変えたり、古く汚れた教室をPTA活動などを通してメンテナンスしていくこと
ができないかについて調査しています。私も自分が通った小学校に現在自分の子供が通ってい
ますが、毎回参観日に行く度に教室が汚れて薄暗いことが気になっています。毎日子供たちが
掃除をしてるのだけど、もともとの空間が随分汚れているので、掃除をしてもどれだけきれい
になっているのか分からない状態じゃないかと思います。1年に1度大人や子供が集まって2~
3教室ずつ塗替えをすれば、10年~15年で1度きれいに塗替えられることになり、メンテナン
スをシェアすることで学校をきれいに保てるのではないかと考えています。
「メンテナンス指向デザイン」は上記の新しい維持管理方法が出てくることで、さらなる重要
性が増す部分だと考えていますが、BPSのデモなどを通して維持管理会社や建設会社の話を聞
くと、世の名の建物がどれだけ維持管理や改修を念頭に置かず設計されているのかが良くわか
ります。サステイナブルデザインや持続可能性が叫ばれる時代になった今、自戒も含め、この
状況を大きく変えていく状況にあるのは確かです。
そこで杉田宗研究室はデジタルで建築の「設計」「施工/生産」「維持管理」を全て串刺しに
する集団になることを新たな目標に掲げました。これまでの設計(コンピュテーショナルデザ
イン)と施工/生産(デジタルファブリケーション)の連携に加え、「維持管理」(クリエイティ
ブメンテナンス)がつながることで、まだ見ぬ建築の風景を見ることができるのではないかと
考えています。そのためにはBPSの研究のように、様々な専門家との協働が重要になります。
そのような協働に積極的に関わり、自分の視野を広げていく学生とともに探求を続けていき
たいと考えています。