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コラム

設計者はAIにどのように向き合うか?

2023.10.31

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

わたしたちの生活の一部になりつつあるAI
まちに普段通りの活力が戻ってきた。それに伴い、様々な産業が活性化している。一方、その
活力の裏側では人手不足が大きな社会問題になっている。仕事は多いけどリソースが不足して
いることへの企業が抱える悩み・・・。多くの産業では、今、デジタルやAIを取り入れて、こ
の課題を打開しようとしている。
 
先日、ある地方のまちではバスを大幅に減便し、オンデマンドバスの運行に切り替えたという
ニュースを目にした。運転手の減少が原因ということのようなのだが、タクシーアプリGOのよ
うに、利用者がスマホで乗車と下車ポイントを登録すると家の前まで迎えに来てくれて、目的
地まで連れて行ってくれる。AIが最も効率的な運行計画を割り出すらしい。運転手の負担を減
らすと同時に利用者の利便性も高めているというものであったが、インタビューからはAIがバ
ス会社の生産性も高めると同時に、利用者の満足度も高め、結果的に社会のしくみを良い方向
に変えて地域を豊かに導いていることが見て取れる。そのほかにも、最近は公共のオープン
データを利用し市民生活の利便性を図るようなAI活用も数多くみられる。このようなものを見
るにつけてAIは既に私たちの生活に定着しつつあることを実感する。
 
私たちの建設産業はどうだろうか?他産業と同じように人材不足の状況にある。建築設計界に
おいては2040年には30%労働力不足に陥るというデータもある。今、私たちは、少ない人材
資源で多くの仕事を時間内に、しかも高い品質と創造を維持するという、一品生産性が持つあ
る意味『特殊な生産性向上』に向き合わなければならない。
 
誰もが感じ取っている通り、設計における生産性向上を進めるカギはデジタル化とAIの活用で
あることは間違いないだろう。ここで重要なのはAIの分析と予測能力を発揮させるための
『データの蓄積』と言われている。過去のデータに加え、設計者の考え、社会やクライアント
のニーズ、環境(エネルギー、カーボンエミッション)への配慮、防災BCPなどの条件、まち
づくりやエリアマネジメントからの要求、そして法規などをデータ化することで、確実に『検
討段階の時間短縮』を可能にする。筆者の周りをみてもそうであるが、建築設計のフィールド
には付帯情報も含めて多くのデータが散在してると言えよう。言い換えれば、今まで使われな
かったデータも宝の山になる可能性があるということである。
筆者の事務所では多くのデータを持つ都市と建築をつなぎ、様々な生活に使うべく思考を巡ら
している検証例があるので、以下紹介する。
 
PLATEAUとBIMをくっつける『PLATEAU-BI』
まちと建築におけるデジタルとAIの統合活用例である。
PLATEAUは既にご存知と思うが、形態および属性情報を持っているもののBIMとの連動が進
んでいなかった。筆者のデジタル×デザインワークスでは「データセットとビジュアライズの
動的な連携検証(都市情報マネジメントダッシュボド)」を用いて二者のデタ統合を試み
ており、一定の成果を得ることができている。これにより都市情報と建築情報(高さ、面積、
構造種別、建物用途など)が一元化し、PLATEAUの情報をより検索しやすくする。同時に、
どのまちでも迅速に分析と予測の検討を進めることができるという特色もある。
 
下図は上記の仕組みを利用し、まちのそれぞれの建築用途ごとに消費するエネルギーを分析し
た例である。まちのモデルにオリジナルの属性情報を移行させながら、新しい情報も加える。
これをマネジメントシステムで分析し、3Dビジュアライズ化する。ここまででもかなりのレ
ベルの現状分析が可能になる。さらに、社会やクライアントニーズや要求事項、さらに設計者
の思考をインプットすることにより、将来のあるべき姿を得ることもできる。例えば、まちの
環境づくりにおいては、どの用途の建築のエネルギーをどのように下げるべきか、どのような
まちのアクテビテを誘発するかなどの将来予測や計画を自動生成することも可能であろう。
 
このように、エネルギー問題のみならず、カーボンオフセットや防災BCPなどの都市が抱える
課題も同時に解決することもでき、結果的にこれらをベースに一元的新しいまちづくりやエリ
アマネジメントにもエビデンスをもって迅速に活用できる。
独自ではあるが、この取り組みはそのまちの人にとって、現状を把握し、将来に向けて何がで
きるかを明確に把握し、生活の改善の種を知ることで、積極的なまちづくりへのモチベーショ
ンにもつながることも確認できている。
 
今回は、「設計者はAIとどのように向きあうか?」について触れてみたが、デジタルやAIを利
用することで、社会やクライアントにどれほど満足感を与えることができるか。そして人々の
生活に充足感を与えられるかが、これからの目的のポイントになると思う。そして、この満足
感と充足感は、設計本業以外のビジネスにも拡大する可能性を十分に秘めている。
 
紹介したPLATEAU-BIのように、デジタル、AIへの思考は確実に拡大し続けている。使う側に
とっては、品質と創造の維持拡大をフォローするとともに、仕事量と人材リソースと時間バラ
ンスをもコントロールできることになるのだが、大事なのはそれを的確にハンドリングし、
ディシジョンできる人の能力であろう。『特殊な生産性向上』への道筋は、このようなところ
にあるのだろうか?

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員