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コラム

ライフサイクルBIM7
~二重螺旋をつなぐ現況BIM

2023.11.21

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

建物ライフサイクルマネジメントにおけるBIM活用は、企画・設計から始まり施工・竣工を経
て運営・維持管理に至り、撤去への分岐点を通って一周し再び企画・設計に戻るという円と、
その中心に置かれたBIMモデルというイメージで説明される。建物ライフルサイクル全体で建
物情報としてのBIMモデルを共有し利用する、という概念としては間違っていないと思うが、
少々概念的というか曖昧な部分が多いという印象も受ける。
建物を新築で設計・施工し竣工後に運営・維持管理を行い、各工程間で建物情報を継承し大規
模改修やリノベーション等で二周目が始まると解釈することもできるが、ある建物の企画・設
計から運営・維持管理まで建物情報を継続的に利用して得られた様々な知見を別の建物のライ
フサイクルマネジメントで活用すると見ることもできる。概念であるため、対象が単体の建物
なのかCREとしての建物群なのかを含め様々な捉え方ができると思う。
建物ライフサイクル全体で建物情報としてのBIMモデルを継続的に利用するという概念は理解
できても、実際にやってみようとすると具体的に何をすればよいのかよくわからない、という
声も聞く。そもそも企画・設計から施工、運営・維持管理まで同じBIMモデルを共有・流通し
ていくのは現実的ではないという議論が続いていることを考えると、建物ライフサイクルマネ
ジメントで恒常的に利用可能なBIMモデルのあるべき姿を捉えるのはそれほど簡単でないこと
がわかる。
 
通信事業を始めとする多施設を経営資源や事業基盤として使う場合、建物ライフサイクルマネ
ジメントは事業方針に基づく新築・改修・模様替えや経年劣化に対応する大規模修繕のための
企画・設計・監理(以下、構築業務とする)、事業方針や事業環境に基づく資産管理・スペー
ス管理、建物やその構成要素の監視・制御、性能維持のための運営・維持管理(以下、保守業
務とする)に大別できる。経営方針・事業方針に基づく中長期の建物整備計画の策定と保守業
務を遂行する上で発見された問題や課題の解決に向けた修繕計画をまとめて単年度の建物整備
計画を策定し、それに基づいた企画検討や設計・監理といった構築業務を実施し、変更点を次
の段階の保守業務に反映させる、というループが繰り返される。新築の場合は企画・設計を建
物ライフサイクルの明確な始点とみなすことができるが、既存建物の場合は始点が明確になら
ない。保守業務で策定した整備計画に基づき構築業務を実施する、という見方もできるが、構
築業務で変更された建物状況を対象に点検や診断を含めた保守業務を実施する、という捉え方
もできる。このように一度動き出した建物ライフサイクルマネジメントは、構築業務と保守業
務が互いに業務や建物情報を引き継ぎ合う太極図のような関係となる。
 
色々なケースや例外もあると思うが、企業組織で多施設の建物ライフサイクルマネジメントを
組織的に実施する場合、経営に与えるインパクトを考慮し年度単位でコストが平準化されるよ
う計画・実施をするのが一般的だろう。構築業務であれば単年度の整備計画により工事(企
画・設計・監理)を実施し、保守業務であれば年間計画に沿って実施された点検・診断結果と
経営方針や事業計画に基づいて整備計画を立案する。したがって、ある年度で実施した保守業
務で立案された整備計画は、翌年度の構築業務で実施されることとなる。つまり建物ライフサ
イクルマネジメントは[N]年度に策定した整備計画を元に[N+1]年度で工事を実施し、その結
果を元に[N+2]年度の保守業務が計画されるといった二年度を一つの単位とした構築業務と
保守業務の繰り返しで現わされる。[N]年度に策定した整備計画を翌年度の構築業務に渡した
後、[N+1]年度で保守業務は[N]年度の構築業務の結果を受けた保守業務を実施することにな
り、同様に二年度を一つの単位として保守業務と構築業務が繰り返されることとなる。複数年
の時間を要する新築や大規模改修についても年度単位での事業計画の中で管理実施される
このように二年度を一つの単位として構築業務と保守業務が互いに建物情報を継続していく姿
から多施設を対象とした組織的な建物ライフサイクルマネジメントは時間軸の方向に二重螺
旋が進んでいくようなイメージで捉えることができる。
 
二重螺旋構造でイメージされる建物ライフサイクルマネジメントでの現況BIMを介した建物
データフローには、構築業務と保守業務によって更新される現況BIMを年度単位で次年度の工
程に継承することと、建物の変更に応じて更新される建物情報を同時並行で実施される構築業
務と保守業務で共有・交換することの両立が求められる。前者は年度単位の整備計画・保守計
整備計画として作成実施され、後者は故障・クレームやテナント要望への対応等短期間
で解決しなければならないものによる変更点の共有ということになる。
このような要件に応える建物情報の管理と現況BIMの運用を実現するには、単純に現況BIMを
更新し続けるだけでなく、年度(または半期や四半期)単位での建物の変更履歴情報と、建物
が変更を加えられたというイベントごとに確定するスナップショットとしての現況情報を両立
できる必要がある。そのためには建物が変更されてから現況BIMへ反映されるためのリードタ
イムや変更箇所の容易な把握、建物が変更されたというイベントの定義やルール化、そしてそ
れらの確実な実施方法を検討すべきだろう。
 
ある建物が設定された期間の中でどのように変化したかという情報を次工程に継続できること
と、刻々と変化する建物の状況を必要な時点で確実に把握・共有できることが建物ライフサイ
クルマネジメントに求められる現況BIMの姿ということになる。更に多施設を対象とした組織
的な建物ライフサイクルマネジメントを実践する上では、多くの建物の現況BIMの構成や設定
される情報項目の標準化、全施設を対象とした建物情報の横断的な活用における「現況」を定
義しておくことも必要となる。ライフサイクルBIMの姿を明らかにするために、対象となる建
物の姿を捉える時系列的な視点の設定が重要なポイントの一つであると考えている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門  設計情報管理センター