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コラム

想定外を想定する

2023.12.14

パラメトリック・ボイス
                           東京大学 高木 真太郎


20xx年某日、突如として大きな揺れが日本列島を襲う。私はかろうじて建物の倒壊や津波を
逃れ、近くの避難所へと駆け込んだ。そこから何日が過ぎただろうか、避難してくる人の数が
増えている。しかし、何かがおかしい。人は増えるのに、食料や生活用品といった物が増えな
い。届かない物資、減っていく備蓄。通信手段もなく、どうすることもできないまま、時だけ
が過ぎていく。これだけの人数が、後何日持ちこたえられるのだろうか...。

初めまして。高木真太郎と申します。東京大学豊田啓介研究室のメンバーが持ち回りで担当す
るコラムも5回目となりました。(過去4回はこちらから。第1回第2回第3回第4回)今
回は私のお話にしばしお付き合いいただければと思います。

さて冒頭のお話いかがだったでしょうかこんな極端なことありえないと思われましたか。
しかし、これは実際に起こりうる話です。支援物資は基本的に「供給者→一次物資拠点→二次
物資拠点→避難所」の流れで送られるのですが、拠点での物資の滞留が主な原因となり、東日
本大震災や熊本地震などでは避難所で物資不足が起きています。今後想定される南海トラフ地
震では、数多くの大都市が被災する可能性がある以上、過去の災害を大きく超える悲惨な状況
が起きてもおかしくありません。そして、このコラムを読んでいる多くの人が関わりを持つ建
築は、否応なしにこれに対する対策を求められます。そこで、今回は、災害発生後の災害対応
における建築のあり方について物資拠点を例に挙げてお話ししようと思います。

物資拠点とは、大量に送られてくる物資の保管や仕分けといった物流の交通整理を行う場所で
す。この拠点は多くの場合、展示場などの大型の公共施設を一時的に転用して用います。物資
拠点なのだから、既存の物流施設を用いればいいのでは?そう思われた方もおられるかもしれ
ません。しかし、既存の物流施設は日々配送される荷物が多く置かれているため、物資を保管
するスペースがあるとは限らないのです。また、民間の施設は災害後に普段の業務に徐々に戻
る必要があります。そのため、災害が起きたそのタイミングで、長期に用いることは難しいの
です。結果として、ある程度融通の利きやすい公共施設が用いられることになります。
では、それらの公共施設は物資拠点として実際にどのような対応をしていたのでしょうか。

1.毎日配送される食料か配送頻度の低い日用品か、物資の性質によって複数空間に分けて
 
保管する。一つの大空間で保管しようとすると、物資ごとにスペースを分けて明示する必
  要があり発災初期の混乱の中では、性質の異なる物資が混ざった状態で保管されてしまい
  管理がしにくくなるリスクがあります。しかし、空間そのものが分かれていれば、そのリ
  スクを下げることができるでしょう。
2.手作業での仕分けが必要かフォークリフトなどの荷役機器での運搬が必要か、作業の性
  質によって空間を分ける。
動線やオペレーションが確立している物流施設に比べ、物資拠
  点では、作業員と荷役機器の接触事故等のリスクが高まります。そのため、作業の性質に
  よって空間を分けることはオペレーションを安定させる上で重要だと言えるでしょう。
3.到着したトラックが待機できる場所を設ける情報が錯綜する災害時には、トラックが予
  定通りに到着しないことが多々あります。その場合、オペレーションの都合上、必ずしも
  到着した順に荷物を下ろすことができないためにトラクの待機させる必要があります。
  もし、待機場所がないと道路上に列をなすことになり渋滞が引き起こされかねません。

いくつか例を挙げましたが、これらは、災害により発生する不安定性や不確定性に対処した結
果だと言えます。そして、これらの状況は個別的であり、それぞれの場所で刻一刻と変化して
くため、想定外の事態が起こりうるでしょう。したがって、災害対応では想定外の不安定性や
不確定性を想定するという矛盾に対処する必要があるのではないでしょうか。おそらく、新築
や改築時の建築計画だけでこの矛盾に対処することは難しいでしょう。様々な情報技術の発展
を利用し、それらと掛け合わせた対応を考えていくことが必要なのだと考えます。

 写真は、熊本地震で物資拠点として用いられた熊本県民総合運動公園陸上競技場。
 2021年筆者撮影。

 写真は、熊本地震で物資拠点として用いられた熊本県民総合運動公園陸上競技場。
 2021年筆者撮影。



 

高木 真太郎 氏

東京大学生産技術研究所 特任研究員