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コラム

建築BIMの時代25 オープン

2023.12.19

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

『オープン-「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』(著:ヨハン・ノルベリ
訳:山形浩生・森本正史 発行:ニューズピックス)という本を読んだ。ちなみに原題は
『Open: The Story of Human Progress』である。これまで人類は「開く」ことで進歩し
「閉じる」ことで後退してきたことを、技術・科学・歴史・文化・政治・経済などさまざまな
側面から例証し、「開く」ことの必要性を説いている。これからを考える上で大変に参考にな
る。

海外の書籍に共通することだが、原注の多さに驚いた。本書の原注は計511である。学生時代、
恩師に「1冊の本を書こうとすると、100冊の本を読まなければならない。1冊の本には100冊
のエッセンスが詰まっている。100冊の本を読むと、10,000冊の本を読んだことになる。だ
から本を読め」と言われたことを思い出した。いろいろ紹介したい記述があるが、特に印象に
残っているものを3つだけ紹介したい。
“昔はよかった”とよくいわれる。現在のアメリカでは一般的に1950年代が良い時代だと思わ
れているようだ。しかし1950年代の多くの人は「1920年代こそ古き良き時代だったと指摘」
していた。このように「古き良き時代」を求めて時代を遡り続けた結果「最終的に5000年前
の古代メソポタミア」に行きつき、その時代の粘土板に楔形文字で「人類が落ちぶれてし
まった」と書かれていたそうだ。
次は、イギリスの脚本家でSF作家のダグラス・アダムスが「様々な時代の技術的イノベー
ションに人がどう対応するかを3か条にした」ものである。
「1、生まれたときに世界にあったものはすべて正常かつ普通で、世界の仕組みの自然な一
   部にすぎない」
「2、15歳から35歳までのあいだに発明されたものは、何であれ新しく刺激的、革新的で、
   たぶんそれを仕事にできる」
「3、35歳以後に発明されたものは何であれ、自然の摂理に反している」
最後は、クレイトン・クリステンセンの例。彼は「『アップルはiPhoneで成功をおさめない』
そして『歴史を見ればそれは明白だ』という確信に満ちた予言をしている」そうである。誰で
も間違うことがあるという例で、妙に安心する。
巻末の訳者解説も素晴らしい。この本の内容が分かりやすく簡潔にまとめられているだけでな
く、自分はオープンだから大丈夫だと思って、分かった気になるなと警告してくれている。
 
前置きが長くなった。“オープン”はBIMの代名詞ともいえる。BIMを推進する国際団体
buildingSMART Internationalは“openBIM”を商標登録している。これは、建物のデジタル情
報のオープンな情報共有基盤が必要だと考えているからである。オープンな情報共有基盤があ
れば、情報のやり取りに関わる非効率さや不便さが軽減されるだけでなく、新たな価値を生む
可能性が高い。それは建物に関わる多くの人にさまざまな便益をもたらす。そして、この情報
共有基盤の中核になるものがBIMであると、私を含めBIMを推進する人たちは考えている。
BIMに対して半信半疑の方も、オープンな情報共有基盤が必要であることには賛同いただける
と信じている。現在の建築生産システムは長い年月をかけて築かれてきたものである。現時点
でBIMと噛み合わない点も多々あることは承知している。『オープン』では、内側と外側、こ
ちら側と向こう側のような区別を過度に意識することがお互いの交流を少なくし衰退が始まる、
また変化を受け入れない姿勢も同様に衰退に向かう兆候であると再三再四述べられている。建
物のデジタル情報のオープンな情報共有基盤が大事なのであり、BIMそのものが重要という訳
ではない。BIMに懐疑的な方も、呉越同舟と思ってオープンな情報共有基盤を構築することに
協力いただきたいと思う。



 写真は江戸城の天守台(写真上)と姫路城の天守閣(写真下)。BIMとは全く関係ないが『どう
 する家康』つながりです。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長