Magazine(マガジン)

コラム

アイデアのガチャを回す 新人BIM設計研修事情

2024.02.01

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

コラムで毎年この時期は設計部配属者向けの研修を話題にしてきました。昨春に入社した1年
生は10カ月に渡る長き研修を終え、いよいよ設計部へ配属となります。ゼネコン=総合請負業
としての知識を設計現場を問わず詰め込まれる10ヵ月間が長いか短いかの議論もありますが、
ゼネコンマンとしてのマインドセトとしては必要なステップだと思いますその最後の1ヵ月
は配属先の専門分野ということで、過去のコラム「新人デジタルデザイン研修の最新事情
配属ガチャと新人BIM研修」では実施する設計課題の方について触れておりましたが、今回
は開始時のオリエンテーションの時間について触れたいと思います。

まずはBIMについて。近年の学生のみなさんが採用書類に使うポートフォリオが従来の模型写
真からモデルのレンダリングに変わってきた話はこれまでも触れてきましたが、実際のところ
入社した新人の方がどんなアプリケーションを使っているのか聞いてみました。
結果ほぼ8割の人はRhinocerosを使用しほぼ半数の方はTwinmotionとLumionを使いビジ
ライズし、Adobeの製品でレタッチしていることがアンケートを通じて見えてきました。一方
で今年度はArchicadやRevitの様なBIMオーサリングツールを使ったことがある方は全体の2割
にも満たないことが分かりました。
RhinocerosはBIMツールではないのか?という疑問もあるかもしれません。Rhinocerosは
BIMへ統合することはできますが、単体ではBIMではない、というのが私の認識です。
新人のみなさんにはBIMオーサリングツールを習得いただき、様々なデータを読み込んで問題
の抽出や様々な気づきを得て欲しいと思います。そのためにはBIMオーサリングツールには
データインポートの許容力とパフォーマンスの向上を常に求めています。
 
受講する新人の方々からアンケートの他に質疑を募りました。「BIMを使った設計とは具体的
にどのようなものか?」というシンプルかつ本質を問うものをいただきましたので、現在私が
担当している物件で具体的に説明をしました。小規模なプロジェクトですが傾斜地に建つ木造
です。まずは敷地の高低差を知らねばならず、測量前なので国土地理院や地図会社から地形
データを入手し、Archicadに読ませます。必要な床面積を確保するためにどの程度切土するの
か、またその位置から見える周囲の景観はどのようなものかをモデルを見ながら確認します。
客先の要望は2階建てでしたが、敷地の傾斜に沿ってスキップした平屋の様な計画とし、さら
に眺望と周囲からの計画地の見え方を考慮して客先要望の1階と2階の要素をひくり返しま
す。屋根のトラスは過去の他の物件を流用し勾配はそれに倣い、外部の設備置場は経験則で想
定します。マテリアルはまずは自分の好みのものを選びTwinmotionにダイレクトリンクし画
面を見ながら調整を加えます。敷地の地形データの入手と最終の客先提出のレンダリングは
CGチームにお願いしましたがそれ以外はほぼ私の手元のノトPC(とはいえCOREi9のグラ
ボ入り)上で完結します。どのくらいの時間で出来たかは(今後の私の業務に差し障りがあり
そうなので)書きませんが、模型でコンタを再現して検討するよりは圧倒的に早く、外観・内
観パースと平面図が同時に出来あがります。
先程の質問に対する回答としては、「設計者が自ら考え方をまとめ、発注者の承認を早期に得
る」でしょうか。それを短時間で行えるかがポイントです。実際に客先へ見せたところ、建物
位置を大きく変えることになりました。「見え過ぎてしまう」BIMは時には客先とのラリーの
応酬に繋がることもありますが、様々な可能性を見せることは本来我々に求められる職能では
ないでしょうか?あらゆる事が決定されてから入力するBIMは本質をスポイルしていると私は
考えます。可能性は無限に分岐しており、どれを手繰り寄せるのか、それはガチャを回す感覚
に近いです。模型で検討していても恐らくは、壊しては作り壊しては作りの繰り返しですが、
BIMでやれば躊躇なく次の案へ行けます(模型を否定しているのではありません。むしろ模
型は大好物なので機会があればお伝えしたい・・・最近は主にガ〇プラですが(笑))。
 
研修のオリエンテーションの時間は私が社会人として過ごした30年間の自分語りとなって、
書いている今は思い出して小恥ずかしい感もあるのですが、最初の5年は手描きと2D-CADの
併用、次の5年は3D汎用CADの使用、そこからの20年は全てBIMで設計しているので、今更
「BIMを使った設計は・・・」ということをお伝えするのも違うかなとも思い、「これから
教わる全ての仕事のやり方を疑って下さい」と言いました。受講生にしてみたらポカンとしま
すよね。ただこれは生成AIが実装されはじめた現在の偽らざる本音で、今がちょうど大きな変
革点になると思います。5年後の仕事の仕方は全く変わっているかもしれません(まあBIMを
始めたときもそう信じてましたが・・・)。
 
今回触れていない研修の課題発表会の様子については、2月中にSNSで公開すると思います。
豪華ゲストもお招きし、新人3チームの講評をお願いしてますのでアップされましたらどうぞ
ご覧ください。これを書いている時点では未だ終わっていませんので私も楽しみにしていま
す。

 当社建築設計部門のSNS(Instagram)を始めました。広く様々な方と繋がりたいと思います。
 学生の方を意識したコンテンツやイベントのご紹介もあります。今回ご紹介した研修の課題発
 表はこちらで掲載予定ですので是非フォローをお願いします。
 ちなみにタイトルの「アイデアのガチャを回す」は漫画家の赤坂アカ先生がポッドキャストで
 語った言葉です。

 当社建築設計部門のSNS(Instagram)を始めました。広く様々な方と繋がりたいと思います。
 学生の方を意識したコンテンツやイベントのご紹介もあります。今回ご紹介した研修の課題発
 表はこちらで掲載予定ですので是非フォローをお願いします。
 ちなみにタイトルの「アイデアのガチャを回す」は漫画家の赤坂アカ先生がポッドキャストで
 語った言葉です。



 

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長