二拠点生活のすすめ
2024.03.05
パラメトリック・ボイス
Unique Works 関戸博高
時間というものは不思議なものだ。最近ますます時間が経つのを早く感じるようになった。若
くても同様なことを言う人がいるので、年齢のせいばかりではないようだ。「十年ひと昔」と
言うが、今は「五年ひと昔」と感じる。変化が激しい東京にいると特に感じる。現在北海道の
街と東京で交互に暮らしているので思うのだが、北海道ではもう少し時間はゆっくり流れてい
る気がする。このような物理的な時間と感覚的な時間の違いがなぜ起こるのか考えている先達
もきっといるに違いない。
さて、このコラムの読者は若い人が多いと思うので、タイトルの「二拠点生活のすすめ」には
違和感を感じるかも知れない。それどころじゃないよと。反対に田舎暮らしを選ぶ若い人も増
えてきているので、年配の人よりも直感的に理解してもらえるかも知れない。
北海道の十勝帯広と東京で、それぞれに月の半分ずつ住むようになって三年が経つ。春夏秋冬、
季節にかかわらず二拠点生活を楽しんでいる。「なぜ十勝なの?」とよく聞かれる。十勝平野
は広く、約100km四方が概ね平らで、自転車に乗るのに快適だったからというのが最大の理由
だ。
(補足)
「季節にかかわらず」と言っても、もちろん冬は凍った雪のために自転車には乗れない。
滑ってひっくり返らないように散歩するぐらいが精一杯だが、これでは冬の間に筋力が衰
えてしまう。そこで部屋の中で乗るトレーニング・マシーンを手に入れた。実際の自転車
をマシーンに合体させ、走りと連動するアプリを見ながら乗る。するとゲームのサイクリ
ング・レースに参加・没入することができ、飽きなければ連続して50kmぐらいは走り続
けられる。このシステムは画期的に出来が良く、画像が上り坂になると連動してペダルが
重くなり、実際に走ったように疲れる。リアルとバーチャルがこんなにも上手く連動する
のは感激ものだ。
二拠点生活を始めた頃は、コロナがいつ下火になるのか分からない時期で、東京での通勤は自
転車、仕事は出来るだけリモートでするようになっていた。そこでコロナの少し前から自転車
をかついで旅行で行くようになっていた帯広に目を付けて、もう一つの定住先に選んだ次第で
ある。
これは人生100年と言われる社会背景と自分の年齢、歴史にも残るコロナのまん延、そしてIT
の急速な展開という偶然の巡り合わせが、自分の人生のこのタイミングで可能にしてくれた。
今思うと最高のタイミングだった。
そんな訳で二拠点生活を始めてみると、一拠点定住とは違う面白いことが分かってきた。簡単
に言うと、生活パターンが全く違ってくるのだ、行く・帰ると言う往復運動から、ラリーのよ
うに通過点はふたつ決められているが、それ以外は本人次第という動きになるということだ。
その未決定な時間と空間が自分の自由になるとしたら、面白くならないはずがない。
ましてや帯広は北海道という大地にあり、農業生産地(*1)ではあるが観光地ではなく、自然も
多く、地域全体に落ち着いた時間が流れている。あとは自分次第だ。
(*1) 十勝管区(1市16町2村)人口:約36万人、帯広市人口:約17万人、
食料自給率(カロリーベース):日本全体は約36%、十勝は1200〜1300%
(頼もしい数字だ)
個人的な二拠点生活について長々と書いてきたが、要はこんな気分の良い環境で、前回のコラ
ムで触れたペンシルバニア大学の「BIM Project Execution Planning Guide」の翻訳を続けて
いることを書いておきたかった。いくつかの仕事を並行してやっているので、時間は掛かって
いるが、人に見せられるレベルになるところまではやり遂げたいと思っている。回り道のよう
だが、これで得た情報をBimDAO によるBIMの教科書作りにも生かしたいからでもある。
尚、この「Guide」は単なるBIMのガイドブックではなく、BIMを使ったプロジェクト・マネ
ジメントの優れたテキストとして読むのがお勧めだ。特にリーダーにならんとする人に読んで
もらいたい。
最近こんな話をしていたら、今度はS先生からBIMのテキストとして、フィンランドの通称
COBIM、つまり「Common BIM Requirements 2012」を読んでみたらと勧められた。こち
らはBIMの使い方を設計から施工やビル管理に至るまで、テーマごとにSeries1〜13に分けて、
それぞれのテーマについて20数ページを使い解説している。日本では業界横断的にこういうも
のを作る組織が無いが、COBIMの説明によれば、フィンランドの政府系の不動産
会社(Senate Properties)に加え、他の不動産所有者やデベロッパー、建設会社、ソフトベン
ダー、buildingSMART Finlandが資金を提供したと述べられている。こういうことがすぐ気に
なるのは、自分のキャリアのせいだろうが、こういうものを作るのに資金を出し合う社会を羨
ましく思うのは私だけだろうか。
最後にBIM–ECコンソーシアムのことに少し触れておきたい。
1.HPがリリースされました。
2.昨年から継続中の実証実験(PoC)は最終の段階に入っており、まもなく会員によるPoC
システムのテスト稼働が行われる予定です。
3.まだ本開発までにやる課題も多く、その代表はUniclassのコードから最終商品のIDまでの
データ連携です。使えるデータがどこにあるのかの探索も含め試行中です。
それにしても日本のデータは、連携することで価値を生み出すようには存在していないこ
とは確かですね。残念なことです。