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コラム

「ひらく」ことで得られるもの
―新オフィスでの試みから―

2024.03.22

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

「まちをつなぎ、人をつなぐ」新しいオフィスでの働き方
新しいオフィスでの新たな働き方を開始して約2か月が過ぎようとしているが、適度な刺激と
心地よさに包まれ、これまでにないリフレッシュ感が広がっている。全体的に「開放的」なの
だが、特にグランドレベルではまちにひらくことを強く意図しており、日常的にミーティン
グ、来客コミュニケーション、プレゼンテーション、そしてイベントなどの風景が見られる。
暖かい日にはサッシを全開放して、全面道路一帯がカフェテラスのような雰囲気に包まれ、ま
ちの中で仕事をするような感覚になる。ここにいると、階段を行き来する人々との挨拶や偶発
的な会話も絶えない。
最近のトレンド的命題にもなっている「まちをつなぎ、人をつなぐ」。これを本格的に行うた
めにはどのようなことが必要なのだろうか?まずは、「まちにひらく」の意図を深く考えるこ
とが不可欠であるように思う。

まちにひらくの意図とは
まちへの開放の目的は地域の歴史、文化、経済、そして生活を基盤として人との結びつきを強
化することにある。このつながりは多様なアイデンティティやアイディアを生み出し、企業に
とって様々なビジネスを育むにも有益である。また、地域社会へ開く企業の姿勢は、地域貢献
やサステナビリティへの責任を醸成させることにもつながり、その活動そのものが企業のブラ
ンド価値向上にも寄与することになる。
このような場づくりは、地域社会との良好な信頼関係の構築や、持続的な地域活性化の起点づ
くりにもなりうる。また、こういった場は働く人のモチベーション向上にも寄与することを実
感する。さらにこの場を活用して環境負荷低減などの社会課題にも正面から向き合うことで、
持続可能な社会価値創造への貢献も注目されることになり、企業全体のモチベーションも上が
る。
それでは「ひらく」を意図する場とはどのようなものなのか?一つの画期的なひらき方の実践
例を紹介したい。

ひとまち社会をつなぐ
名古屋錦三丁目のSLOW ART CENTER NAGOYAは、「ネオメタボリズム」を新たな都市の新
陳代謝と位置づけ、「スローアート」を創造プロセスのコンセプトに掲げているプロジェクト
である。
旧教育館跡地(名古屋市中区錦三丁目 16 番街区)暫定活用事業 『SLOW ART CENTER NAGOYA』 2024 年 3 月 31 日開業及び出店店舗が決定 | 三菱地所
この特徴は人、地域、地球のWELL化の実現と同時に、新陳代謝可能な建築やまちの資源を結
ぶ回遊性を生む特異な仕掛けを持つ実証実験の場であり、アートを起点として人とまちと社
会のつなぎ方やひらき方を解いている。研究者やアーティストやウェルネスサービスのコミュ
ニティを結びつけ、多様な運営プログラムを通じて地域の学校、公共施設、商業との連携を強
化し、「日常的に訪れる場」を創出することでまちの回遊性と循環を高め、地域人口の増加や
経済効果の向上、活気づくまちへの導入を追求する。まさに人と建築とまちの新たなつながり
を築くためのひらき方のヒントがあるように思う。
このように日常を如何に活性化することができるか?が重要であり、そのための「ひらく」こ
とを思考することが「ひと-まち―社会をつなぐ」を実現するカギになるのだろう。

まちにひらくモノ、コト、人づくり―新オフィスから―
モノづくりをしている設計事務所が地域にひらくことで、従来のイメージも大きく変わるだろ
う。地域社会にひらくことで地域の生活文化を理解し、人と人とのつながりを強化することが
可能になるし、この開かれた姿勢が社員の成長に寄与し、さらに、社員が地域づくりに積極的
に貢献することで、地域全体を育て上げる一翼を担う。地域づくりはまち全体の活性化には不
可欠であり、この流れは多岐にわたる社会課題解決や社会全体の健全化にも寄与することにな
る。
単なる住む、働く場所の創出だけでなく、多くの人が集まる仕組みを構築することが、地域経
済、生活、防災、環境など様々な社会課題を柔軟かつ効果的に解決する。そのような理念で
「ひらく」試みを始めている。
「ひらくこと」は単なる場の開放だけでない。地域社会、ビジネス、文化との繋がりを通じ
て、持続可能で豊かなまちづくりに寄与する重要な要素でもある。場や地域を「ひらく」こと
が、人と地域とを結ぶ架け橋となり、快適で健康的な社会環境の構築に貢献することになるの
ではないだろうか。


村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員