情報と建築学:デジタル技術は建築をどう拡張するか
~東京大学特別講義
2024.03.29
東京大学の池田靖史氏、本間健太郎氏、権藤智之氏を編著者とする東京大学所属の建築系研究
者の計38名の著者による、「情報と建築学:デジタル技術は建築をどう拡張するか/東京大学
特別講義」が3月20日に学芸出版社より刊行した。
今回は、同書について紹介する。
同書は、2022年10月に2日間にわたって開催された「東京大学建築情報学シンポジウム」をも
とに、登壇した東京大学所属の建築系研究者38名が、自らの研究や専門分野と情報との関わり
や、近年の動向について書き下ろしたもの。
東京大学建築情報学シンポジウムは、2022年4月に池田靖史氏(建築情報学会 会長)が東京大
学大学院 工学系研究科建築学専攻 特任教授として着任したことを契機に企画された。当時、
まだコロナ禍の影響があった時期にも関わらず、リアル開催の同シンポジウムには定員を大幅
に上回る申し込みがあり、学生や大学関係者に加えて、設計事務所、建設会社やメーカー、さ
らに建築以外の分野からも多様な人が参加。また、オンラインでの配信も実施し、こちらも多
くの視聴者が参加し、同シンポジウムが終了したあとも大きな反響があったという。
同シンポジウムがこのような注目を集めた理由としては、意匠・計画・歴史・構法・環境・構
造・材料といった建築学を構成するほぼすべての分野の研究者が一堂に会し、情報学を切り口
に分野を横断する可能性を探ったことが挙げられる。一方で、こうした関心の高さは、BIM、
AI、3Dスキャン、3Dプリントなどの情報化技術を目にする機会が増える中で、それらが建築
にどのような変化をもたらすのかということが未だに見えにくいことの裏返しとも言えるとい
う。また、東京大学に所属する建築系の研究者をこれほど多く集めたシンポジウムは、これま
でおそらく開催されたことがなかったなどの理由もあり、登壇者からも、他分野の潮流や共通
の問題意識を学ぶ貴重な機会になったと評価された。
このような外部と内部からの好意的な反響を受けて、同シンポジウムの内容を書籍化すること
になったものだ。
同書は、単なる記録集ではなく、読み応えのある書き下ろし集にすることを意図し、一体感の
ある構成を目指した。具体的には、シンポジウムのテープ起こしを著者全員で共有して互いの
執筆内容を参考にしつつ、各著者が書き下ろした原稿に対して編著者が複数回のディレクショ
ンを行うことで内容を深めることに努めたという。
そのため、各著者のユニークな筆致と幅広いテーマを保ちながら、情報学を軸として一貫性を
もって編集された一冊に仕上がっている。
内容は、「建築学」と「情報学」の両方の視点を持つ学問としての「建築情報学」がどのよう
な視座から建築や都市を考えようとしているのかについて扱っており、既存の学問体系にはな
かった新しい視座を提唱したいという意図も同書には存在している。
同書では、建築情報学が従来の建築学の体系を横断し、異なる領域の間での融合の可能性を意
識してもらえるよう、既存の建築学的な領域分けとは異なる切り口で、「デジタル・クリエイ
ティビティ」、「デジタル・インタラクティビティ」、「デジタル・サスティナビリティ」、
「デジタル・マテリアリティ」、「デジタル・プリディクタビリティ」、「デジタル・レジ
ティマシー」の6章立てで構成された。
同書は280ページ以上にも及ぶボリュームで、出版企画時の2023年初頭に東京大学の建築学科
または建築学専攻に所属し、それぞれに建築学上の専門領域を持つ研究者によって執筆されて
いる。
目次をご覧になれば、同書の内容がさらに掴みやすいので、同書の目次を下記に掲載する。
執筆陣は東京大学所属の建築系研究者38名で、編著者の池田靖史氏、本間健太郎氏、権藤智之
氏をはじめ、松村秀一氏、赤司泰義氏、豊田啓介氏、横山ゆりか氏、舘知宏氏、谷口景一朗氏
などの最先端の研究者たちが名を連ね、非常に読み応えのある一冊となっている。
同書の価格は、2,700円(税別)で、書店などで購入が可能だ。