地方自治体のスマートシティ政策に迫る
2024.07.09
パラメトリック・ボイス
東京大学 石政 龍矢
はじめまして。東京大学豊田啓介研究室特任研究員の石政と申します。豊田研究室持ち回りの
回も、今回で第8回目となりました。これまでご覧いただいている読者の方々には、改めて感
謝申し上げます。過去の連載はこちらから(第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回、
第7回)。見逃した回がありましたら、ぜひご覧ください。
私からご提供するテーマは、地方自治体におけるスマートシティ政策です。地方自治体のス
マートシティ政策を、各地方自治体策定のスマートシティ推進計画から特徴語を抽出すること
で、その理解に迫っていきたいと思います。本記事ではその結果について紹介し、読者の皆様
がスマートシティ政策を考える、何かのきっかけになれば嬉しいです。まだまだ未熟で勉強中
の私ですが、温かい目でご覧くださると嬉しいです。それでは、以下どうぞ。
1. スマートシティ政策と地方自治体における取組
スマートシティという言葉が世に浸透して久しくなりました。スマートシティの定義は一様で
はありませんが、国土交通省では「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつ
つ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な
都市または地区」と定義しています。経済産業省ではその先駆けとなる「次世代エネルギー・
社会システム実証事業」を2010年に開始し、以後各府省でスマートシティの推進に向けた取組
が始まりました。近年では岸田内閣主導のもと「スーパーシティ構想」や「デジタル田園都市
国家構想」という名称で、地方自治体におけるスマートシティの推進が図られています。
このように始まったスマートシティ政策ではありますが、それぞれの地方自治体が目指すス
マートシティ像には必ずしも正しい答えがあるわけではなく、目指す方向性も異なるものです。
画一的な推進が難しい分野であるからこそ、各地方自治体の目指すスマートシティ像に関する
正しい理解が必要となります。
本記事では以上の考えのもと、地方自治体のスマートシティ政策について、各地方自治体が策
定するスマートシティ推進計画から特徴語を抽出することで、その理解に迫った結果を紹介し
ます。
2. 特徴語の抽出はどうやるの?
特徴語の抽出ってどうやるの?と思われた読者もいるかと思います。ここでは、簡単にその方
法についてざっくり説明します。
用いた手法は「TF-IDF分析」です。んー、難しそうな言葉ですね。でも安心。考え方はとても
シンプルです。TF-IDF分析は、文書内における各単語の登場数(Term Frequency)と珍しさ
(Inverse Document Frequency)に着目し、その掛け算をしたものをTF-IDF値として、
TF-IDF値の大きい単語を特徴語と見なす方法です。
本記事で分析の対象とする地方自治体は、令和3年、国が掲げるスーパーシティ構想に応募し
た28の地方自治体とし(表1)、各地方自治体が公表するスマートシティ推進計画をもとに
TF-IDF分析を行いたいと思います(注1)。分析は、Google提供のWebブラウザ上のPython
実行環境であるGoogle Colaboratoryで行いました。文章の前処理はMeCabを使用しました。
どうやらMeCabは、開発者の好物がめかぶだったことから命名されたとか。ちなみに私は苦手
です(笑)。分析を簡単にするために、特徴語として抽出する単語は名詞かつ日本語オンリー
です。
3. 結果のご紹介
それでは分析の結果を見ていきます。紙幅の都合上全ての地方自治体の結果は載せられません
が、ここでは、茨城県つくば市、神奈川県鎌倉市、福岡県北九州市の3市の結果を紹介します。
3市のスマートシティ推進計画に記載された特徴語上位20個を並べた結果は、表2のようにな
りました。
茨城県つくば市は、「投票」という言葉を始め「医療」「荷物」等の単語が並んでいます。
「搬送」や「移動」等、物流やモビリティに関する単語も多く見られます。実際につくば市の
「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を眺めると、「つくばポーター」「つくばモビリ
ティ」として、荷物搬送ロボットやパーソナルモビリティ等の導入による物流やモビリティの
最適化が謳われています。
神奈川県鎌倉市は、「市民」という言葉や「共生」、「幸福」等の特徴的な言葉が並んでいま
す。「鎌倉市スマートシティ構想」では、基本理念に「市民起点」、「共生の精神」が掲げら
れ、市民ニーズに基づくスマート化や、子ども・高齢者・障害者・観光客等誰もが共生可能な
社会の実現が謳われています。また、政策の評価のために「幸福度の数値化」も謳われていま
す。
福岡県北九州市は、鎌倉市と同じく「市民」という言葉の他、「業務」、「市役所」、「職員」
といった市組織内部に関する言葉も見られます。「北九州市DX推進計画」では、デジタル技術
の活用による市民サービスの向上に加え、市役所内の業務改善や職員の意識改革・働きやすさ
の向上等が謳われています。
上記3市のスマートシティ推進計画については、本記事の末尾に参考URLとして載せました
ので、関心のある読者はぜひ見てみてください。
4. ネットワーク化してみよう
前述で算出したTF-IDF値をもとに、計画が類似している地方自治体を線で結んだ結果が図1で
す。それぞれの地方自治体が線でつながれている場合、その2つの地方自治体の計画は類似して
いることを示しています。北九州、めちゃくちゃ線多いですね。全体的には、西日本の地方自
治体から線が多く出ている印象です。
線の本数が多い市は順に、福岡県北九州市(15本)、愛知県常滑市・京都府京田辺市・宮崎県
延岡市(14本、同一値)、沖縄県石垣市(13本)となりました。より多くの線を持つ、すなわ
ち多数の地方自治体と類似関係にある地方自治体の計画は、それだけ普遍性をもった計画を策
定していると考えられます。前述のように、福岡県北九州市は市民に対するデジタル技術の活
用について触れているだけではなく、市組織内部に対するデジタル技術の活用についても触れ
ており、市役所内外を通じたデジタル技術の活用という網羅的でバランスのある計画の内容が、
他多数の地方自治体とつながった一理由として推察されます。
5. まとめ
本記事では、近年の地方自治体におけるスマートシティ政策について、スマートシティ推進計
画から特徴語を抽出することで、その理解に迫った結果を紹介しました。ただし、本記事で
行った分析は導入程度の簡単なものであり、分析の精度は改善が望まれます。
そのためまずはこんなことやってみましたよ程度の紹介として、本記事が、皆様が地方自治体
のスマートシティ政策を考える最初のきっかけになれば嬉しいです。
【注釈】
注1)スーパーシティ構想への応募に際し、都道府県+複数(または単一)市町村の応募と
なっている場合は都道府県を除外し、分析の対象を市町村単位に揃えました。なお、市町村の
中には「スマートシティ」を冠した計画がない場合もあり、その場合は当該市町村が策定する
デジタル化(DX化)計画で代用しました。いずれも策定していない市町村については除外をし
ました。以上の結果、分析の対象となった市町村(地方自治体)は28となりました。
【参考URL】
・つくば市「つくばスーパーサイエンスシティ構想」
・鎌倉市「鎌倉市スマートシティ構想」
・北九州市「北九州市DX推進計画」