Magazine(マガジン)

コラム

建築BIMの時代28
設計情報のデジタル化への長い道のり

2024.07.11

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

先日、二十数年ぶりにアメリカの友人とあった。30余年前、UCバークレーと共同で建築設計
業務におけるコンピュータ利用についての研究を行った。彼と私がそれぞれのメンバーとして
一緒に活動した。共同研究終了後は、メールでのやり取りをしていたが、疎遠になっていた。
当時、彼は博士課程の学生だったが、その後ユネスコで世界遺産に関する仕事に携わっている
と聞いていた。タイからアメリカに戻る途中に、東京に立ち寄るので都合が合えば会いたいと
のメールがあり、久しぶりの再会となった。お互い齢を重ね、家族を持ち、変わったことも沢
山あるが、旧交を温めることが出来た。正に「朋遠方より来るあり、亦た楽しからずや」であ
る。

彼と再会し当時のことを思いだした。6月の杉原さんのコラムで紹介されていたフランク・
ゲーリーの事務所にもお邪魔した。ディズニーのコンサートホールの曲面の壁のモックアップ
を3次元デジタイザでデータ化していた。それをCATIAに取り込み図面化等に利用すると聞い
て、建築家がここまでするのだと驚いた記憶がある。またAppleに調査に行った時、対応して
くれた技術者が長髪、裸足と正にヒッピーのようないでたちで登場し、さすがAppleと感心し
た。サンフランシスコのレーザーカッターを開発している会社は、模型の部材を切り出すサー
ビスを行っており、送られて来たCADデータで部材を切り出し、宅配便で納品するという方式
で、全米から注文があるという話を聞いた。デジタル情報の強みを実感した。一方、日本の鉄
骨ファブでは、ゼネコンからCADデータを受け取っても、一から自社のシステムに入力すると
聞いていた。製品に責任を持つためのことだと聞いて、納得はしたもののもっといい仕組みが
あるのではないかと思った。

共同研究を行った1990年代初頭、PCやインターネットは使うことはできるが、本格的に仕事
で利用しているという状況ではなかった。携帯端末やスマートフォンはまだ販売されていな
かった。将来的にPCの能力が向上し、LANやインターネット等のネットワークがさらに発展
すると予想されていたが、それらを利用していたのは限られた人たちであった。共同研究で
は、デジタル技術を活用して協働する必要があること、一人ひとりがデジタル技術を使いこな
せるようにならないといけないと結論づけた。CADのような設計業務に直結したアプリケー
ションを使いこなす前に、ワープロや表計算、メールなどコンピュータとネットワークを使う
ことで仕事が楽になったこと、効率化したことを実感することから始め、その体験を徐々に設
計業務に直結したアプリケーションに拡げていくことが重要であると説いた。設計者一人ひと
りのコンピュータ・リテラシーを高めることが、結果としてコンピュータ利用の成果を獲得す
ることにつながると考えていた。当時は、インターネットの商用利用が始まったところだった
が、World Wide Webを始めとしたさまざまなインターネット上のサービスの発展をみると、
その考えは間違っていなかったと思っている。

現在、さまざまな分野でデジタル化が進んでいる。都市や建築も例外ではない。デジタル技
術、デジタル情報は全ての人が使うことでその効果が飛躍的に向上する。建築のライフサイク
ルでのBIM活用を考えた時、設計および施工段階でのBIM利用は時と共に進展している。一方、
建築を利用・運用している段階でのBIM利用(BIMによりデジタル化された建築情報の利用を
含む)は進んでいない。さまざまな課題があるが、それらを解決し建築のデジタル情報を活用
する豊かな社会の実現に貢献したいと考えている。「学びて時に之れを習う、亦た説ばしから
ずや」を実践していきたい。
蛇足だが、論語ではこの後に「人知らずして慍らず、亦た君子ならずや」と続く。このように
生きたいと思う。

※論語の書き下し文は中国古典名言事典(諸橋轍次著 講談社学術文庫 1979年)によった。

    写真は羽田空港に向かって西新宿上空を通過する飛行機である。この文章とは何の
    関係もないが、超高層ビルの上を通り過ぎる飛行機を見上げると嬉しい気分になる。

    写真は羽田空港に向かって西新宿上空を通過する飛行機である。この文章とは何の
    関係もないが、超高層ビルの上を通り過ぎる飛行機を見上げると嬉しい気分になる。


 

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長