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コラム

BIMによるGHG排出抑制設計とは

2024.08.20

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

このコラムが掲載されるのは夏も終わりの頃でしょうか。近年毎年言っている気がしますが今
年も厳しい暑さでした。今回はこの夏の出来事を振り返りながら当社の取組の一部をご紹介し
たいと思います。
 
仕事柄出張は多いのですが、新幹線が延伸した福井県に行ったついでに足を伸ばし、内藤廣先
生が設計した福井県年縞博物館を訪れました。そこに展示されている「年縞」とは、最寄の水
月湖の湖底に堆積した泥や砂などの層が縞模様になったもので、ボーリング調査で得られた
7万年分のコアサンプルが展示され、過去の気候や植生の環境変化などが考察・展示されてい
ます。悠久の時の流れにおいては地球の気温も寒冷期と温暖期を繰り返しており、本当にこの
暑さはCO2の温室効果のせいなのか?と訝しんでみたりもするのですが、南極やグリーンラン
ドで得られる氷床コアからはその閉じ込められた気泡から古代の大気の分析もできるらしく、
数万年から数十万年のCO2濃度の変化がすでに明らかになっています。CO2濃度の変化を示す
グラフは「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の評価報告書などで見ることができます
確かにこれはやばいですねCO2を始めとする温室効果ガス(GHG:Green House Gas)
の排出抑制が急務であることが分かります。CO2はあくまで一つの指標に過ぎず、本質的な問
題は私たちの人間の産業活動や生活の一つ一つの所作に気候変動リスクを減らすことやGHG
排出抑制を結びつける意識が必要と思われます。合わせてエネルギー効率の向上や再生可能エ
ネルギーの普及、持続可能な開発の推進など、建設業にとって大きな課題があるという事実も
認めざるを得ません。建設業が与えるGHG排出のインパクトをまず客観的に示す必要がありま
す。例えば、建築物の建設・解体時の排出量、建物運用期間で消費するエネルギーなどを明ら
かにすることが重要です。そして代替案を提示して比較検討をテーブルに上げることが我々の
責務と思われます。
 
2050年カーボンニュートラルの実現と2030年温室効果ガス46%削減(2013年度比)に向け、
建築分野では建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)の改正・強
化によって建物運用時(オペレショナルカボン)のCO2削減の取組は進みつつあります。
一方で、建物の新築・解体時などに発生するCO2(エンボディドカーボン)はその把握の難し
さのためカーボンニュートラル推進の足枷になっていると思われます。
 
すでに最新10行ニュでご紹介いただいてますが、当社では建物建設時と運用時のCO2を把
握するためにBIMとLCAツOne Click LCAの連携を自動化することで短時間に評価がで
きるLCA評価支援システム「CO2-Scope」を開発しました。これは単に設計の結果を集計する
ためではなく、計画段階で設計者が自ら使うことを意識し、計画を改善していくためのツール
です。
GHG削減のためにはまずその発生要因の見える化が必要です建設には数多くの資材が必要
とされその材料毎のCO2排出原単位や数量、調達先、施工方法、廃棄等に関連した様々な情
報の入力に、多くの時間や労力が必要とされます。各種図面から部材の数量積算、部材の物性
値の分別、原単位の割り当てを実施する作業は、そのデータの精度・確認時間により差がある
ものの、これまでデータ作成から算出まで1か月程度の時間を要していました。このコラムを
読んでいる方はお分かりと思いますが、オブジェクトに様々な情報を持つBIMデータを活用す
ることで解決でき、最短で1日程度と大幅な時間短縮を実現します。エンボディドカーボンの
早期見える化は次の効率的な削減提案や設計変更時の迅速な環境評価につながり、カーボン
ニュートラルの実現により近づいていきます。
 
現在注力している取組の一つが大規模木造の推進です。以前は木造の定義として構造の過半が
木材でなければ木造と言えないのでは、という拘りもありましたが、材料としての木材は建築
時に炭素排出が少ないだけでなく、木としての成長過程で炭素を固定し貯蔵する特性がありま
鉄骨造でもRC造でもその一部を木質材に置き換えることの意義を感じています日本はご
承知の通り有数の森林国で国土の森林率は約67%です若い木はよりCO2を吸収するので、
日本の豊富な森林資源を適切に活用しサイクルを回していくことが、山の保全や地域産業発展
だけでなく気候変動リスク上も重要と言えます。
 
これまで取り組んできたBIMと大規模木造は相性が良く、すでに仕事は繋がっていましたが今
回そこへGHG抑制のためのLCAが足されました。BIMの取り組みの際にも繰り返し唱えてきた
つもりですが、図面が出来上がってからの見える化のためではなく、計画の中でシミュレー
ションを繰り返し、よりベターな解に辿り着くことが重要です。設計者は2024年問題もあり、
やることが多過ぎて大変だと思いますがBIMだけでなくLCAツールも自分で扱えることを期待
しています。

 この夏訪れた飛騨の製材所。当社は飛騨市と「地域資源の活用による持続可能なまちづくりに関
 する連携協定」を締結しました。カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブに木材活用で貢
 献したいと思います。

 この夏訪れた飛騨の製材所。当社は飛騨市と「地域資源の活用による持続可能なまちづくりに関
 する連携協定」を締結しました。カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブに木材活用で貢
 献したいと思います。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長