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ユーザー事例紹介

AIで3Dモデルを簡単・短時間で自動作成し
BIMの一気通貫へ<U’sFactory>

2024.08.26

創業から10年以上にわたって建設会社や専門工事会社、設計事務所が抱える課題に向き合い、
3DCADを活用したITソリューションとDX化を促進するUsFactory(ユーズファク
トリ)。
同社はBIM積算・集計システム「BI For ARCHICAD」のアップデートを続けるほか、AIを活
用して構造部材リストを自動で読み取る「AI Structure」を2023年秋にリリース。AIと建築
技術の融合で誰でも簡単に高精度の3Dモデルの作成を可能にすることが、これまでのBIMで
なかなか実現されていなかった一気通貫の利用を促進させるという。
同社代表取締役社長の上嶋泰史氏にAI Structureが実現している圧倒的な作業量の削減の
実際と、新たな機能「SSEオプション」について、詳しい話を伺った。

BIMの一気通貫活用の鍵となるAIと建築技術の融合
BIMの3Dモデルを活用した積算集計システム「BI For ARCHICAD」を2013年にローンチし
たUsFactoryは、2023年11月に「AI Structure」をリリース。導入した企業での実
績が増えている。「AI Structure」は、建築構造図面の部材リストをAIの活用により自動で読
み込み、転記作業を行う機能である。国土交通省の技術部会の分野横断的技術政策ワーキング
グループでも、UsFactoryの「AI Structure」は2024年7月に大きく取り上げられ
た。同社代表の上嶋泰史氏は、「AI活用の事例やアプローチに対する注目度が、これまでにな
く高まっていることが感じられます」と語る。

 株式会社U’sFactory 代表取締役社長 上嶋 泰史 氏

 株式会社U’sFactory 代表取締役社長 上嶋 泰史 氏


「3DデータがBIMの理念通りに設計から維持管理まで、一気通貫での利用がされていない背景
には、いくつかの要因があります」と上嶋氏は指摘する。一つは、古い紙の図面を3Dモデルで
入力することは大変な労力とコストがかかること。次に新築の案件であっても3Dモデルで設計
したところで、確認申請は2Dの図面で行われていること。また、施工でも一部の3Dモデルを
計画のシミュレーションに使用する程度で、施工図作成では2DのCADで作業されていること。
結果として、過去の紙の図面も、現在の3Dモデル作成も多大な時間と労力がかかる現状があ
る。そして、高精度な3Dデータ作成に対応できるスペシャリストが少ないため、高いコストが
かかる。「解決策は、AIと建築技術を融合させることで、誰でも簡単に高精度の建築3Dモデル
を作成できることにあります」と上嶋氏は語る。
 
スペシャリストでなくても簡単に3D情報を入力可能
一例として、基礎の情報を記した図面のPDFから「AI Structure」で部材リストを作成するプ
ロセスを見てみよう。

 AI StructureのWebサービス選択画面

 AI StructureのWebサービス選択画面


上嶋氏は「範囲を設定し、階高の設定や通り芯の数値などを抜き出すことは、簡単なようで意
外と面倒なものです。『AI Structure』ではボタンひとつで、スパンがいくつあり、スパン間
の距離がいくつといった一覧表が出て、CSV出力することで必要な情報を抜き出すことができ
ます」と説明する。上嶋氏は、AIの解析をかけて情報が図面に入ってくる時に配置の工夫を
し、座標の上に文字が表示されるように開発した。小梁の情報を自動発生させる時に小梁のラ
インを探しにいき、文字が小梁の直上に置かれるといった具合である。
「AIでただ読むだけでは文字情報の上に座標が置かれてしまい、文字情報の入れ違いがあった
時の発見や修正に手間がかかります。一方、『AI Structure』での表示を確認し修正していく
間違い探しのような作業は、建築の図面を扱うCADオペレーターでなくても可能で、登録する
ための時間が非常に早くなりました。建築のことをよくわかっている人間がAIを使って開発し
たからこそ、生まれた技術です」と上嶋氏はいう。

 AI Structureの画面

 AI Structureの画面


ArchiCAD+AI Structureを導入して間もない、講習を1回行った企業で、扱い始めて1ヵ月の
人が「どんなプロジェクトでもほぼ活用できる」との実感を得たという。これまでは、部材を
定義する入力といった作業で時間がかかっていたが、「AI Structure」であれば、システマ
チックに数値が確定してスパン数などの情報が図に配置されるので、イメージを持ちながらス
トできる。「これから3Dモデルをつくろうとする人たちのハドルが下がりますし、もっ
とやってみようという人が増えるでしょう。AI Structureを使うと、図面が書ける人じゃなく
て事務ができる人でも入力ができるのです」と上嶋氏はその絶大な効果を語る。
 
3DモデルにAI解析の文字を取り込み自動配置
同社はさらに、既存の紙の図面やPDFから3Dモデルの部材を自動配置するツール「SSEオプ
ション」を今年の6月にリリースした。これは、ArchiCADにPDFやスキャナーで読み込んだ図
面を読み込み、AI解析で文字を抽出して文字の種類を自動で分類化。そして、フロア名、図面
範囲仮想原点の位置を設定することでArchiCADの3DモデルにAI解析した文字(部材符号)
を取り込んで部材ごとに自動配置するという機能である。こうして、3Dモデル上で部材符号か
ら3Dオブジェクトを移動作成する。「各フロアの登録が圧倒的に早くなり、文字を自動分類し
て読み込んでくるため文字を移動する手間も減り、自動生成も早くなりました」と上嶋氏。文
字を自動分類して読み込み3Dモデルを自動配置する技術で、特許出願もすでにしているとい
う。

 3Dモデルを自動配置した画面

 3Dモデルを自動配置した画面


「当初は、既存の図面にある梁の部分をそのまま再現しながら通り芯を表現したかったのです
が、線が入り乱れて梁と柱の見分けがつかないことがありました。それならばと考え、AIが得
意な文字の部分に特化するという逆転の発想に至りました」と上嶋氏。通り芯の情報をあらか
じめつくっておくことで、通り芯の交点に柱ができ、柱と柱を結ぶ個所に梁ができる。そこに
文字が読み込まれることで、自動生成が圧倒的に早くなった。さらに「AI Structure」に情報
を戻して結果を確認していくと、大梁の中に小梁が食い込んでいるような状態が最適化される
ため、端点を修正するような作業が省略される。こうした発想は上嶋氏がユーザーの意見を聞
き、やり取りをしながら生まれたものだという。「BI For ARCHICAD」でもユーザーの声を
聞きながらアップデートを繰り返してきており、UsFactoryの基本的な企業姿勢と
なっている。

 SSEオプションの画面

 SSEオプションの画面


BIM積算「BI For ARCHICAD」の問い合わせは積算事務所からも増えているといい、上嶋氏
らは3Dモデルのサンプルをつくてリアルタイムで答えるなどしている積算の作業では部材
の定義と配置に時間が最も取られるため機能を充実させてきたBI For ARCHICADの導入
に前向きな企業が増えているという。上嶋氏は「3Dモデルの作成に要する時間と工数を1/10
程度にすること」を以前から目標にしており、「これまでは1~2週間必要だった積算時間が、
早ければ最短で当日で提出することも可能になります。こうなれば、積算でかかる単価の考え
方も変わってくるでしょう」という。また、早い段階で納まりなどの問題を発見し、確認申請
前に修正ができていれば、現場での手戻りがない状態になる。

 配筋納まり検討中の画面

 配筋納まり検討中の画面


sFactoryではAIと建築技術を融合する開発を現在もさまざまなケースで行ってお
り、今後も機能を順次リリースしていく予定だ。同社では建築や現場の効率化を進めてきた知
識が豊富にあり、培ったナレッジをAIに学習させることができるのは、同社の強みである。
「3Dモデルを駆使することで情報がさまざまなところに波及していき、設計や現場でさまざ
まな立場で関わる人の働き方や仕事の進め方も変わっていくでしょう」と上嶋氏は予測する。
sFactoryは今年8月に12年目に入り、ようやく同社の思想に時代が追いついてきた
感もあるが、上嶋氏はさらに先のビジョンを描いている。

「AI Structure」および「SSEオプション」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。