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コラム

自然が蓄えた圧倒的なデータの利用と“AI”(後編)

2024.08.27

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

前篇で5月22日は「国際生物多様性の日」と記述したが、警鐘も含めて、子供時代を通じた自
然体験がデジタルスキルをベースとした創造活動にとって如何に重要と感じているかの後編。
四季を通じた自然との触れ合い。前篇では春と夏に触れたが、今回の後編は秋と冬。
秋の白浜と自然海水を櫓から落下させ天日で濃縮し製塩細竹枝と高さ10m位の何本もの列
柱櫓で設えた“枝条架” 8~10ユニットをレベル差で棚田に似る大規模構成。最終は温泉の蒸気
圧で沸点を下げた高さ12m、直径5m位の3基の白い大釜で真白な塩が出来る。当時は最新の
“流下式塩田”の中を裏庭から赤トンボの大群と高い鱗雲やモズの高鳴きを聴きながら歩く小学
校への道。途中に浅くても涸れない地域にとって重要な“殿様井戸”。理化学研究所を経た親父
戦時中にロケット燃料の開発特命を受け基材のリチウムを主体に研究中だったと没後に知
る。戦後、この開発拠点が製塩工場となった。自転車で帰宅時は門柱左右の大きな松大樹で
ホッとしゆったり階段とアプローチ庭のコスモスや菊、萩、水仙、ホオズキ、カラスウリ、
山芋、ムカゴ、ドングリ、桔梗、コオロギ、鈴虫などと秋の植物、姉のソノシートや初期のス
テレオ放送も楽しんだ日が替ると秋茜群やツクツクボウシを追い、被れるハゼやトカゲ、ム
カデヘビマムシアブに注意しながら野原や山林歩き山桃やグミシャシャンボ=ブルー
ベリーの仲間、山葡萄、アケビ、サクランボ、石榴などの果実を採り、植物・昆虫標本、鳥や
虫を飼育山鳥や兎採りの仕掛けや山湧き水の秘密苔麦踏み。温泉神社秋祭、獅子舞、囃子、
子供神輿にウキウキ。中秋の名月はススキと月見団子、反物をヒゴで留めて干していた庭で遊
ぶ雀と活気の中に穏やかさが満ちた毎日"ジェーン/伊勢湾”超大型台風も経験ジェーン台風
では床下の強風で舞上がる畳を部屋の中心に積上げ、その上に乗せられていた記憶がある。エ
ントランスの松大樹も1本倒木。片や伊勢湾台風は台風災害史上最悪と記録されている。今は
“ひまわり8号”で更に精度の高い台風や線状降水帯などの気象予報がスパコンとの連動でより
精度が上がっている。

 枝条架

 枝条架


 日本最古の“崎の湯”

 日本最古の“崎の湯”


師走冬の白浜は暖かい殆ど凍らず雪も滅多に降らない海に続く日本最古の露天風呂“崎ノ
湯”や浜の自噴温泉で時々体を温め帰宅近所での餅つき新年を迎える準備の注連飾りや鏡
餅飾の赤い実の千両や万両、裏白シダ探し。大晦日は年越し蕎麦、除夜の鐘で眠気と戦い、外
は濃紺の天空に満天の星、そして、一年が終わる。毎晩、寝落ちも含め爆睡。唯一、厭だった
のは元化学者の親父の指示で夏季に毎日、定時に海水と地上・地中温度を観測し記録。退屈で
苦痛。変化がない時は、ズルもしていた。台風時の気温などの僅かな変化が重要だと後に理解
出来た。完全放任主義の両親の掌で遊び呆けながら自然との対峙と実践で生態系や多様性、四
季変化を学習していたのだと思う。この体験をベースに地球環境での創造活動に興味が強くな
り自然を敬い感謝する気持ちも湧いた。吸収力の強い子供時代に四季の自然の中で触れあった
昆虫や鳥、動植物、海洋生物は前述で触れたように数知れず、人生の価値観を育む基礎であり
最も重要な時であった。後に畑や池と庭の平屋一軒家から中庭の赤い実の南天と海が見晴らせ
る高台の大きな2階建別邸「観海荘」に引越。一年後に無謀にも僅か12歳の時に自らの決断で
東京へ単身長屋転居。この前後に県内初のゴルフ場や南紀白浜空港が開港。この7月に愛称と
して“熊野白浜リゾート空港”と命名された。空港近くのパンダで有名な白浜アドベンチャー
ワールドのオープンも同時代。
子供時代の白浜、ここの大自然で出会った未知の昆虫類や動植物、海洋生物のあらゆる色彩と
形状生き様を持つ自然と生物体に育まれた価値観で東京中野の長屋でナンテンやヤツデ、涼
しげに鳴くスズムシ、朝顔、小さな手造り温室でのサボテン、裏庭で茗荷や椿、柿を育てた。
ここでイモリを初めて見る。高校・予備校時の2年間、群住観察で蟻を飼育。Architectを目指
し、若き宮脇檀さんと六角鬼丈さんに芸大・美大建築受験校で教わり、強いインパクトを受け
建築家はクライアントの要望や設計条件を咀嚼タや思考思想歴史社会・環境・
自然・経済などに各種分析を加え、エスキーススケッチなどでプレリミナリーデザインを進め
る。このプロセスが重要だと教えられた。施主が蟻や動植物だと如何するかとも問われ、そこ
で集団で役割分担しながら営為し完全変態で子孫を残す蟻に焦点を絞り、白浜の経験から裏庭
で女王蟻を探し大ガラス二枚を表裏に設え、厚60㎜*幅1200㎜*高さ600㎜に造った大巣箱で
飼育、観察。予想通り規律正しい空間と役割分担の集団居住で卵から新生命。しかし、木とガ
ラスの細長い箱居住が不快で強風雨深夜に集団脱走現在ではデジタル機器のサモメ
や湿度計での卵や蛹室、貯蔵室、寝室などの各室の環境測定や分析が出来るだろう。その後に
宮脇檀さんとは、スーダンのホテル計画でPr.チームを組み設計業務。夢のようで熱くなった。
自然に育まれた価値観は、山歩きのワンゲルと建築デザイン、絵画と創造活動に繋がり後にデ
ジタルに関心。これは別項で纏めたい。時々、生活を探りに来ていた御袋は蟻の室内飼いを嫌
がっていた。ここで、故人には会えぬ哀しさが募った。
余談中2の時に同級生で千葉の富浦海岸のキンプに行き泳ぎ潜った見ていると誰もが下手
くそ。そこで、軽く素潜りでサザエを二つ採り、以来、海の英雄。これ食べたかなあ~?
 
蟻などの昆虫類はファーブル昆虫記が有名。生態や色、姿は想像を超え多様で多彩。最近は進
化論と共に昆虫の創造論も出る位である。中には、ウイルスを媒介する種もいるが全ての生物
や菌は、腐敗や発酵でセルロースや細胞を分解し次の食物連鎖に繋げている。山や森林の保水
性を高め、乾燥化や水害を防ぐ役割もある。一方、近年の研究では回避捕食行動や交尾欲望が
ドーパミンに依ることや神経系統などのハイテック機器への応用などが見られ、限られた地球
資源の配分バランスで子孫を残す個体が注目されている。人間でも注目されている絆ホルモン
のオキシトシンを昆虫も持っているというが、働きは未だ不明。人間は課題が解けた時や閃い
た時にドーパミンが出る。この快感と欲が次の開発や発見に繋がっているという。
昆虫は時に大量発生する今年は日本のカメムシ米国イリノイ州では13年と17年の素数周
期蝉2種が数十億匹の大群で“221年”ぶりに5月から同時発生。この“ブルード”蝉は生物や植
物、微生物の大変な栄養。生態系に影響があり世界の学者が参集。何故、永い地中生活を選び
13と17の素数年で重なり難い年を選び大量発生しているのか血族交尾を避け子孫継承か
い歴史の必然か。昆虫は、種が百万以上で不思議一杯。未発見を加えると5百万種以上で今で
も進化中。地球環境の維持に必要なのか。進化のパラメーターとアルゴリズムは無限なのか。
進化には重力が関係との研究もあるという。哺乳類は6千種、鳥類は9千種、比して3桁も多
地球で最も繁栄し初飛行したのも昆虫。ナビは、1981年にホンダが初製品化。地磁気と
ジャイロで構成されたナビは、ゴキブリの情報伝達神経研究から導かれたと、ホンダ本社の設
計時に聞いた。今後は治療薬への昆虫情報からの展開も期待されている。短寿命化でストレス
回避を図るとの研究もあるが、世代交代を早くし“敵者生存”で世代ごとの自然環境対応を短期
間でしていると考えられるというFacebookのぶんぶん昆虫探研隊で苦手な昆虫生態
を学習中。グループの森山正博氏から教わった。昆虫の多くは完全変態、超能力だ。環境対応
力と生活力は人間を含めて類を見ない。技巧的でパワフル。何故変態するのか。イモムシ時代
は餌を楽に探せる狭い生活環境で成長。無骨も重要という。姿は、深く観察するとアートと同
様に、保護色などで美しく独創性と創造性に溢れる。虫同士はライバルだが蟻とアブラ虫のよ
うに共生種も多い。高タンパクで食用開発も若者主導で進んでいる。自然や昆虫、動植物を知
ることと蓄えられたデータ利用は、建築の創造活動にも生かされていくと考えている。
地球は生命誕生から40億年余。人類はその僅かな時間の生命体で、動物、昆虫、植物などの生
命体と共存。最新研究で植物は状況判断を匂い、音、光で伝達し、信号音は人が聞けない周波
数だという。魚類は猫や犬と同じ位に状況判断が出来、ミツバチは数を理解し、カラスは鳴き
声で数え、諍い後にキャロルと呼ぶ歌を唄い和解。団結や規律を図る種もいると研究発表され
ている。花アブは、好蟻性で幼虫時同居。ピレネー山脈を越えて移動しヨーロッパに運ぶ花粉
は30億~190億個。無蜂だと人類は食糧危機になるという。
 
昆虫界の調査研究の今後は、デジタルの有効利用が不可分と考えるが期待したい。沖縄科学技
大学院大学OISTには蟻を3Dデタ化し研究する学者がいるゲノム解析で更に進むとい
われている。昆虫デジタル系新情報!「The Festo Group」が蜂をヒントに“BionicBee”、トン
ボがヒントの“BionicOpter”などの新飛行体の情報を見つけた。15年以上前から昆虫や鳥、生
物を研究生物に学ぶFestoグルプは多量で美しく自律飛翔が出来る飛行体の開発を大目標
としている。ブリストル大学とロイヤルメルボルン大学は共同で、チョウゲンボウの安定飛翔
をドローンに取り入れ、飛躍的に飛行を向上させる研究が進んでいるという。日本でもBIM
や生成AI、3Dプリンター、点群データなどの分析で応用が出来ないか。ムール貝やヤモリ
から新接着剤が開発されたように昆虫や生物とデジタルとの融合で新発見を期待している。
 
片や今、日本は半導体生産拠点を拡大増強中。熊本や北海道、宮崎、広島、三重、山梨、石川、
岩手などで稼働に向けて準備中。今年がピークで法整備も進んでいる。次世代の半導体技術を
担うハイレベル加工3マイクロメートルの極微細レ穿孔技術も進展しているという。米
国のアマゾンやマイクロソフト、グーグル、オラクルは高額な日本投資を活発化。日本独自の
AIに不可欠なデータセンターは、好条件でリスクが低い千葉の印西市をメインに和歌山、大
阪・堺、広島、北海道で動きがある。人手が少なく受注しきれない建設ラッシュ。一方、生成
AIに独自のクラウド機能も不可欠で日本はスパコン支援にも重点を置いた身近ではAI
の普及に伴い建築基準法や設計監理業務報酬規定検討が必須。6月19日にグーグルが47都道府
県に特化したAIモデルの開発を進めると発表AIの音声デタを認証する団体が7月に設立
され、AIがAI偽情報を見分けるスキルを開発中という。併せ、AI大国と言われる中国独
自の進化もあり、7月4日から開催された上海での「世界人工知能大会」には、中国企業も含め
て500社以上が参加した。昨年までの10年間で世界知的所有権機関によると、生成AI関連の
約7割が中国の特許であり米国の6倍だという。
次世代の日本では量子コンピューターがAIに活用されると考えるが、今、建築系で注目の新
技術は、木造系を含め菌糸の建築利用や月居住に代表される宇宙建築、月探索移動車、通信大
手の宇宙局などがある。併せ、インターネット下で興味を引く“集団脳”の今後なども学習した
い。7月から8月に亘り湧きたったパリオリンピックでは、選手の情報発信で“SNSチーム
ジャパン”が派遣され誹謗中傷対応や個人情報発信の支援をしていた選手サポトは今後も
継続するという。
今や温暖化が進む日本列島は、海水温が高くなり台風だけでなく東京湾のサンゴ群と南の魚、
房総の海の森の減少など海の生態系が凄い勢いで変化している。地球環境変化は、昆虫を含め
た生物体の自然対応と進化は何処に向かうのか。
 
最後に、国際的ピアニストの辻井伸行氏の幼児期に楽しく子供ピアノを弾く姿に、自分の楽し
かった自然経験と重ね合わせて、幼児期や子供時代の経験実績が自己を形成する重要なファク
ターだと疑いも無く信じたくなる。今、キッズアイランドでは、“生物から学んだ技術を知ろ
う”との子供向け講座があり、楽しめると思う。
3月に宇宙飛行士の古川聡氏は、200日に及ぶ宇宙生活から帰還。地球環境に対応する人間の
回復力や身体的に強い適応力を再認識したとコメント。人間は昆虫同様に長けて有能な適応力
があるようだ。山崎直子氏はTV番組で、地球から見た宇宙は憧れの空間で素晴らしいが、反
転して宇宙から地球を見ると地球が憧れの場所であり更に愛おしいと深く感じたと語られた。
昆虫達や動植物、海洋生物と助け合い共存している素晴らしい地球環境が次世代に継承出来る
ように努力したい。

松家 克 氏

ARX建築研究所 Gr.代表