Magazine(マガジン)

コラム

手描きかCADか3Dか

2024.09.03

パラメトリック・ボイス          隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏

約3年前から、ある大学でCADの授業を担当しています。建築を学び始めた学生に、今後長く
付き合うことになるCADソフトウェアの使い方を教える貴重な経験となっています。

私自身、学部2年生の頃に通った専門学校では、CADは禁止?されており、全て手描きの授業
でした。ドラフターを使ってケント紙やトレーシングペーパーに図面やパースを描く過程は新
鮮で、時間が足りないほど夢中になりました。上手に描けていたわけではありませんが、平面
図でも線の太さや濃さの表現で立体的に見えることを知り、良い図面とは何かを少しずつ理解
していったように思います。

当時はCADの授業はなく、ソフトの使用は学生の自主性に任せられていました。しかし、手描
きを学んでいたからこそ、道具としてのCADの扱い方が理解できたと思います。幸い、私が担
当する授業の学生たちも手書きの図面を学習してきており、CADを道具として扱う点を理解し
た上で授業に臨んでくれています。

CADは手描きよりも正確で迅速に図面を作成できますが、無機質で冷たい印象を与えることも
あります。CADの図面に手描きのような温かみや個性を期待することはありませんが、画面上
の作業ではスケールの概念が実質的にないため、手書きのような「モノと向き合っている」感
覚は薄れがちです。手描きを経験せずにCADを学習する際は、このスケールの点に特に注意が
必要だと感じています。

最近の仕事では、空間コンピューティングも取り入れ始めました。デジタル上での作図はス
ルの自由さがかえってスケール感を掴むことを難しくしますが実空間と融合した3D空間
内での作業には大きな可能性を感じています。スケールレスの自由さを持ちながらも、実空間
と重なることで、モノと向き合いながらの作業が可能になると考えています。

最新のデバイスであるAppleのVision ProではMacに繋いだ画面をみながら作業し、作った3D
モデルをデバイスに送てVRで実寸で確認するという作業を試しています。今まではゴグル
をかけるという作業とPCやMacでの画面作業の間にギャップがあったのですが、ここが繋がっ
たことでスケールレスだった世界が一気にリアリティーを持ちました。さらにもう一歩踏み込
んで実際の3D空間の中を自在に移動しながらスケル感も掴みつつ時に俯瞰で全体を把握し
たりしながら設計するようになるのは時間の問題でしょう。

私が担当させていただいたのはあくまでも2DCADの授業ですが生徒にとて初めて触るデジ
タルツールということで、デジタルの利点も理解してもらいつつ手描きで培われる感覚や理解
の重要性も伝えていきたいと思っています。

 生成AIによるイメージ

 生成AIによるイメージ

松長 知宏 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長