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コラム

再び建築プロジェクト・マネジメントを追いかけて

2024.09.24

パラメトリック・ボイス
              
              Unique Works 関戸博高

プロジェクトを専門家と共に成功させる醍醐味はなんとも言えない喜びである。また、それ
をプロデュースすることは、何よりも面白い。
「プロジェクト・マネジメント」は、その為の知識とリーダーシップの体系である。しかし、
時々当事者間でこの言葉の意味が、お互いよく理解出来ていないことに気づく。
PFI事業や新規事業は、リのリシップによって進められるが、上司がそのリーダー
に「プロジェクト・マネジメントをしっかり頼むぞ」と言っても、受け止める側は「計画を立
てて結果を出せよ」と言われたとしか思っていないことが多い。これは英語のProject
Managementが直輸入され、普通の会話の中の言葉と仕事上の専門用語で定義づけが厳密な
言葉とが混乱してしまっているからだと思われる。
「プロジェクト・マネジメント」は、リーダーにとって重要な能力である。特に現場に近い
リーダーは未経験のプロジェクトへの臨み方、ゴールや計画の明確化、専門家チームの構成
の仕方など、本来は深い知識とリーダーシップ(意志)を武器にその役割を果たすべき存在で
ある。
以前、メンバーのために新規事業開発の「プロジェクト・リーダー」論を書こうと思ったこと
がある。一級建築士の資格があっても、設計が出来るとは限らないように、法的・技術的な知
識だけではプロジェクトを推進していけることにはならない。そんな時必要なのがリーダー
シップだがそんな力をどのように身につけ発揮すれば良いかを理論的に書いておきたかた。
だがどうしても精神論に偏り、伝えたいことが上手く表現できないまま中断してしまった。今
は対象となるプロジェクトの過程を追いながら、リーダーの役割をステップごとに記述すれば
良かったのかも知れないと思っている。
 
少し話が飛ぶが、昨年末にこのコラム*1で、ペンシルバニア州立大学の「BIM Project
Execution Planning Guide, Version 3.0」のテキスト(以下<BEPガイド>と略記)が、
BIMをツルとして使ったプロジェクトマネジメントの優れたガイドになていると書いた。
現在翻訳をし直して、より自然な日本語にし、この<BEPガイド>だけでは理解しにくい個所
その言わんとすることをChatGPTとキャッチボールして注釈を加えるということをしてい
る。この理解しにくさの原因は、<BEPガイド>の背景にある、BIM以前の欧米のプロジェク
ト・マネジメントの研究の蓄積の存在である。それを理解していることが前提で書かれている
からである。
このことを認識したのは、芝浦工業大学の志手教授にこの理解の難しさを話した時だ。彼は自
分が書いた『BIMと建築プロジェクト・マネジメント』*2に以下のようなことが指摘してある
とアドバイスをくれた。
「大学でBIMの教育をする上で筆者が重要だと考えていることは、BIMの初歩的な知識(BIM
ルを用いたモデリング、集計、工程シミュレーションなど)と平行して「プロジェクトマ
ネジメント」の知識に触れることである。具体的にはPMBOK(Project Management Body
of Knowledge:プロジェクトマネジメントの知識体系)の第6版以前に記述されている10の
知識エリアの概要に加え、スコープマネジメントにおけるWBS(Work Breakdown
Structure)法、工程マネジメントにおけるPERT/CPM法、コストマネジメントにおける
EVM(Earned Value Management)法*3
の学習である。理解まで至らなくとも、これらの
概念を知らなければ、BIMは便利と感じることができたとしても「3D/4D/5D」の意味を腑に
落ちて理解することは不可能である。」。
 
<BEPガイド>の理解には、この分野の理解が必要であること、と同時にこのような環境が無
い(解説本が多く出版されていることではない)日本においては、プロジェクト・リーダーの
個人的な研鑽と体験がかなり必要だと言うことである。
 
*1 ArchiFuture Web コラム231221号:「プロジェクト・マネジメント」が必要な日本の
   BIMの行く末(関戸博高)

*2  ArchiFuture Web コラム221006号:BIMと建築プロジェクトマネジメント(志手一哉)
*3 下線部のそれぞれの用語の意味するところはおおよそ下記のごとし。
① PMBOK(Project Management Body of Knowledge):
   -プロジェクトマネジメントの知識体系で、第6版(2017年発行)においては10個の知識
  エリア(マネジメント)と5つのプロセスで分類されておりプロジクトの成功に向けた
  包括的なガイドラインを提供している。現在は第7版(2021年発行)がある。
② WBS(Work Breakdown Structure)法:
   -作業階層構造:プロジェクトの作業を階層的に分解し、管理しやすくするための手法。
③ PERT/CPM法(Critical Path Method):
 -工程マネジメント:プロジェクトのスケジュールを管理する手法で、PERTは主として自
   時間に着目する日程計画法、CPMは時間と費用に着目した日程計画表。
④ EVM(Earned Value Management)法:
   -プロジェクト全体の進捗を予算や出来高、実際にかかったコストなどの金銭価値で分析す
  る手法。
 
最後に<BEPガイド>に書かれている、BIMを使うプロジェクト・マネジメントを進める上で
の重要なステップを以下に箇条書きしておくことにする。
 
ステップ1:ゴールを含めた全体計画とスコープ(範囲)の明確化
BIMを活用する目的や期待される成果物、プロジェクトの範囲を明確に定義し、全体的な計画
と具体的な作業内容を定義する。
ステップ2:プロセスとスケジュールの管理
BIM利用のプロセスのマッピング(プロジェクトの流れや手順を図やチャートで示すこと)し、
効率的な管理とタイムリーな成果物の提供を計画する。
ステップ3:コストの管理と見積り
BIMを使用してコストの見積りと予算の管理を行う。BIMデータを活用により、正確なコスト
の見積りが可能となる。また予算管理の精度を向上させられる。
ステップ4:品質管理の手法
BIMデータの品質を保つための品質基準を定義するなどの管理手法やレビューのプロセスを
構築する。
ステップ5:リスクの識別と管理
BIMの導入に伴う潜在的なリスクを特定し、それに対処するための対策を立案し実施する。
ステップ6:コミュニケーションと調整の重要性
BIMデータをプロジェクトチーム間で適切に共有し、情報の透明性を確保する。また、コミュ
ニケーションと調整をスムーズに行うことで、プロジェクトの進行を支援する。本文に「BIM
計画の策定は共同作業です」とあるように、生身の人間のコミュニケーションが大事。
ステップ7:成果物の管理とレビュー
BIMを通じて成果物を管理し定期的にレビュすることでプロジェクトの品質と進行状況・
目標への適合性を確認する。
 
今回はここまで。「BIMとプロジェクト・マネジメント」への執着は続く。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長