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コラム

線の重み

2024.10.10

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

関西地方以外にいる方、もしかすると関西地方にいる方でも大阪関西万博が来年の4月から開
催される実感がない(極端に言うと興味がない)気がします。
本コラムのコラムニストの方々や読者の方々の中には万博に関わっている方も少なくないと
思いますが、関わっていない方にとっては"いつ"、"どこで"、"何が"行われるのか分からない
と思います。
特に関西以外ではニュース等で扱われることも少なく、扱われるのはお金の話ばかりで、どん
な建築や空間で何が行われるのかの情報が少なすぎる気がします。
開催の是非は置いておいて、技術や文化の国際展示会として楽しめるものにしようとしている
関係者の努力は無駄にして欲しくないと思います。

1889年のパリ万博に際して建設されたエッフェル塔は当時賛否両論あり、建設反対の陳情書
なども出されたが万博における目玉となり今となってはパリのシンボルともなっています。
この話は今回の万博に関する議論でも時々でてきますが、時代も国も異なるため、現実的に参
考にするのは無理があるかもしれません。
個人的にエッフェル塔にはあまり思い入れはありませんが、1970年の日本(大阪)万博の太
陽の塔は見に行く度に得体の知れない感動を覚える建築(?)のひとつです。
太陽の塔の詳細は情報がたくさんあるので、皆さんに調べていただくとして、この作品の最大
の魅力はあふれ出るエネルギーだと思います。
万博記念公園には太陽の塔以外にも70年万博の建築や展示物がいくつか残っていますが、い
ずれからも当時関わった人たちのエネルギーが感じられます。
これは日本が戦後の高度経済成長を経て世界第二位の経済大国になったという時代背景も大き
く関わっており、賛否両論はありつつも未来への期待感が世界に伝わり大成功をおさめられた
のでしょう。

アナログからデジタルに変わっていく事で、ものづくりにおける人のエネルギーが減っていっ
ているというイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
特に両方を知っている世代の方からすると、描く線一本の重みが違うと感じると思います。
たしかに、デザインスケッチや詳細検討時のポンチ絵(スケッチ)のように思考と同時に表現
するときには手書きの方が相性が良いと思われることは理解できますが、相性の良さや作業の
しやすさと一本の線の重みは別だと思います。
おそらく、建築テックの仕事をしている方々にデジタルにおける一本の線の重みを理解してい
ない方はいないでしょう。逆に、手書きでは何となく描いていた線でもデジタルでは幾何的な
意味付けが必要となり、線の意図というものを理解することが重要になります。
アナログでもデジタルでも意志をもって描いた線とそうではない線の重みが違うだけだと思い
ます。
工事に関しても人の手、機械、ロボット、どんな作り方でも今のところは人が考えています。
意志をもって作るかどうかができたものに影響します。

アナログとかデジタルとかの比較をすることに意味はないと思っています。太陽の塔を見る
と、何のために何を作りたいのかをしっかりと考えていきたいと改めて思わされます。


丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長