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コラム

BIMの理想から現実へ 
~BIMのあるべき姿とは?~

2024.11.19

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

今回は、10月24日に開催され、私も講演者として参加したArchi Future 2024のパネルディ
スカッションでお話したことについて触れたいと思います。
このパネルディスカッションは、「BIMの理想から現実へ -先進ユーザーによる辛口ディス
カッション-」というインパクトのあるタイトルの影響もあってか、1講座しての過去最高の
参加数を記録したとお聞きしています。

私自身もまさにこの課題の中で悪戦苦闘している真っ只中なので、多くの方と同じ問題認識を
共有できたことは大きな収穫でした。それに加え、私個人としては、BIMに関わり始めて10年
が経過し、今までの取り組みを振り返る良いきっかけにもなったと思っています。

私が最初にArchi Futureに関わたのは2015年のことで「Revit MEPをプラットフォームに
次代をめざす設備設計BIMの新たなワクフロ」を紹介する機会からだたわけですがBIM
を情報を一元化するためのプラットフォームとして位置付けた上で、BIMをワークフローとし
て捉えて取り組む点など、現在もこの時からそれほど変わっていない気がしています。
ただ当時は、「Dynamoを活用した設備設計の自動化」など、設備分野においても設計者自身
がビジュアルプログラミングを使いこなすことを期待していましたが、実際には一部の熟練者
による取り組みにとどまり、実務の普及に向けて落とし込むのはさすがに難しいと、結構早い
時期から軌道修正をかけてきたのも事実です。
もう少し、実務に寄り添った形でのBIM活用方法で実装することが不可欠だったわけです。

このようなBIM側の課題もありましたが、BIM普及の壁は、外注依存の従来の作図エコシステ
ムから脱却できないなど、長年の慣習や体質に起因する実務側の様々な根深い課題に起因する
ことがほとんどでした。図面凡例や機器表フォーマットが統一されていない、設計手順が人に
よってバラバラ、統一されたルールが余りないなど、これら「BIM以前の・・・」課題が山積
していた影響で、BIMの仕組みを構築し、BIMを導入・普及しようとする取り組みは、長年に
渡る忍耐の連続だったわけです。

また、BIMの導入が進む過程で「BIMを活用すれば楽できる」「BIMで魔法のように良いこと
があるはずという幻想」というか、過大な期待が持たれ過ぎたことも問題を複雑にしてしまっ
たと感じています。BIM自体が目的化してしまい、利用率を重視するあまり、逆に生産性を阻
害する結果に繋がったケースも散見されたわけです。

現状を打破してBIMを本格的に普及していくためには、『BIMのあるべき姿』を疑うところか
ら入る必要があると感じています。
BIMの可能性は様々あるものの、実務に照らし合わせた時に、作業を肥大化させかねない落と
し穴が至る所に散らばっているので、BIMで効果が見込まれる部分に絞った上で、実務で取り
組みやすいように調整する必要があります。
その上で、実務のワークフローとBIMのデータフローのすり合わせを行っていくことで、はじ
めて、実務で効果を発揮できる効率的なBIM活用が実現できると考えています。私自身もどち
らかと言うと実務よりの人間ですので、ここ数年くらいはまさにこの実務とのすり合わせを中
心にした取り組みを進めて来たわけです。

そして、BIM導入は「CADからBIMへツールを置き換える」という短絡的な考え方でもなく、
「すべてをBIMで行うBIM化を目的」にするわけでもない、「BIMに適した検討や成果物に
絞った上で、BIMとCADも併用して活用」することが、日本での現実的なBIM活用方法なのだ
と思います。


あと、BIMを普及していくためには、その時期・タイミングも重要だったりします。
最初は、拒否反応が大きかったのが、ある時期に急にBIMに前向きになりだす人が出だしたり
するわけですが、BIMに対する期待が大き過ぎて過剰反応することが大きく、これをチューニ
ングして現実的な取り組みに調整していくのも、結構難儀だったりするわけです。そのために
は、社内の文化の醸成や、マインドセットも並行して進めていくことが大事だったりします。


今回のパネルディスカッションで、私自身も気づかされることがいくつもありました。
BIMは標準化されることでその効果がより発揮されるわけですが、柔軟性を欠いてしまうとそ
の利用機会や効果は薄れてしまいます。人それぞれ得意分野も異なり、BIMへの理解の仕方や
アプローチの仕方が異なるのも当然な気がします。
BIM側の立場で「BIMのあるべき姿」を推し進めるのではなく、実務側にも寄り添った、『柔
軟性』を意識した取り組みがこれからは求められるのかもしれません。
 

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長