既存建物をデジタル化する新技術
~3Dガウススプラッティングの可能性
2024.12.10
パラメトリック・ボイス 大阪大学 福田 知弘
背景:既存建物のデジタル化の課題
現在、建築分野では「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」と呼ばれる
デジタル技術が重要性を増しています。BIMは、建物など人工物の設計や施工や維持管理を効
率化するために使われる技術で、新築プロジェクトでは広く活用されています。しかし、既存
の建物についてはBIMデータがない場合が多く、データを一から作る必要があります。これを
解決する方法の一つが、建物の実際の形状を3Dデータとして取り込む「Scan-to-BIM」と呼
ばれる方法です。
一般的なScan-to-BIMには、レーザースキャニングや写真測量といった技術が用いられます。
しかし、レーザースキャニングは高精度なデータを得られる反面、機材が高価であるという課
題があります。一方、写真測量はコスト面では有利ですが、得られるデータの精度が低いとい
う欠点があります。
新技術の登場:3Dガウススプラッティング
これらの課題を解決するための新しいアプローチとして、「3Dガウススプラッティング(3D
Gaussian Splatting)」という技術が注目されています。2023年のシーグラフで発表され、
機械学習を活用して2D画像から3Dシーンを再構築する技術です*1。従来技術の一つである
「NeRF(ニューラルラディアンスフィールド)」と比べて、3Dガウススプラッティングは
処理速度が速く、同等かそれ以上の品質を実現します。
提案する方法:既存室内空間のモデリング
筆者ら大阪大学の研究チームは、この3Dガウススプラッティングを活用して、既存建物の室
内空間をBIMに適したデータに変換する方法を提案しました*2。主なフローは以下の通りで
す(図1)。
1.点群データの生成
3Dガウススプラッティングを使って、建物の内部を表す点群データを作成。
2.ノイズ除去
得られた点群データの不要なノイズを取り除き、データを整理。
3.高さによる分類
点群を高さに基づいて分類し、床、壁、天井を区別。
4.床の形状推定
床の境界を抽出し、形状を正確に推定。
5.壁と天井の生成
床の形状と高さデータをもとに、天井や壁のモデルを作成。
検証結果:高精度なモデル生成
筆者らの研究チームは、この方法を用いて作成した3Dモデルを検証しました。その結果、生
成された表面モデルの誤差は0.01mから0.5mの範囲内に収まりました。この結果は、実用に
向けて一定の精度を示しており、提案フローの有効性を裏付けています。
社会への影響:持続可能な建築の実現へ
今回の研究は、BIMデータが不足している既存建物のデジタル化における課題を解決する新た
な道を示しました。これにより、古い建物の改修や効率的な管理が可能になり、建築分野のデ
ジタル化がさらに進むことが期待されます。また、この技術はコスト削減にも寄与するため、
環境負荷の低減や持続可能な社会の実現にも貢献します。
結論:未来の建築を支える革新技術
3Dガウススプラッティングを用いたモデリング技術は、建築のデジタル化において画期的な
進歩をもたらします。この技術は進歩を続けており、広く普及すれば、建築分野だけでなく、
都市計画や文化財保護など多くの分野で新しい可能性が開かれるでしょう。
*1 Kerbl B., Kopanas G., Leimkuehler T., Drettakis G. (2023). 3D Gaussian Splatting
for Real-Time Radiance Field Rendering. ACM Trans. Graph. 42, 4, Article 139,
14 pages.
*2 Hashizume K., Fukuda T., Yabuki N. (2024). A Surface Modeling Method for Indoor Spaces from 3D Point Cloud Reconstructed by 3D Gaussian Splatting, Proceedings of
the 42nd Conference on Education and Research in Computer Aided Architectural
Design in Europe (eCAADe 2024), 1, 695-704.