建築家のための建築家
2025.03.27
パラメトリック・ボイス 髙木秀太事務所 髙木秀太
イラスト:溝口彩帆
建築家をめざして
僕が建築家を志したのはいつだっただろう。中学生、14~5歳のころだったような気がする。
母が安藤忠雄先生特集のCasa BRUTUSを買ってきてくれた。彫刻のように美しいコンクリー
トの建築、光と影が切り取られた空間、自身の創作意欲を燃え上がらせてくれる扇動的な文章。
すべてが魅力的に映った。夢見る心は純粋で切実だったと思う。大学進学は迷わず「建築学科」
へ。そんなこんなではじまった大学生活は僕の人生において最も美しい思い出。尊敬する先生
や仲間との素晴らしい出会いは一生の宝物になった。僕の青春は間違いなく大学の6年間にあっ
たんだ。
イラスト:溝口彩帆
建築家になれない
だけど、一方で、一生懸命だったからこそ実力を思い知らされる場面もたくさんあった。同級
と比較・講評される設計製図の作品が、箸にも棒にもかからないコンペ作品が、満足いかな
かった卒業設計が、すべてが僕に現実を突きつける。「お前は天才ではない」と。建築設計は
僕が想像していた以上にずっと難しかったんだ。僕よりも設計が上手な学生は全国に山のよう
にいたし、僕には文字通り「人生のすべて」を捧げて建築設計に向き合うような覚悟も持ちき
れなかった。設計課題をサボってガンダムのゲームに没頭してしまったある日、ハッキリと
気がついてしまった。「あれ、ひょっとしたら僕は建築家にはなれないんじゃないか?」、と。
建築家にこだわる
「建築家になれない」。認めたくないけど、認めざるを得ない状況。それでも僕は諦められな
かった、だって、14~5歳のころのあの僕を否定することが出来なかったから。もう「建築が
好き」ではなく、「建築のことが好きな自分が好き」になっていたのかも知れない(いや、い
まも。僕は建築に呪われてしまったのか?)。とにかく、能力が無いなら知恵を絞らなければ
いけなかった。そこに現れたのが、そう「コンピューター」だったんだ。いままでの建築設計
とは全く別の武器を持てば、ひょっとすると巻き返せるかもしれない。そんな藁にもすがる思
いだった。いまのままでは建築家にはなれないかもしれない、だけど、そんな僕だけど、他の
同級生とは全く別のやり方で同じ場所にたどり着くことができれば―――。
建築家のために
建築を志してから25年が経った。僕は、コンピューターを大切な相棒として様々な建築家をサ
ポートするようになった。建築設計におけるデジタル技術の価値は「いままでは出来なかった
設計が出来るようになる」ことにあるとは思うけれど、だけど、やっぱり設計をするヒト(=建
築家)がいつもその中心にいるもの。こんな仕事を生業とする僕の喜びはいつも、デジタルを
介した建築家とのコミュニケーションそのものにあったように思うんだ。より良い建築・より
良い空間を実現するために、持てる知識・経験のすべてを費やしてプロジェクトの成功を手助
けする。まだ「建築家」にはなれていないかもしれない。だけどもしかしたら、建築家をサポー
トする建築家くらいにはなれているのかもしれない。そう、「建築家のための建築家」くらい
には。
イラスト:溝口彩帆
建築家のための建築家 展
この4月、髙木秀太事務所は初の展覧会を開催する。タイトルは「建築家のための建築家
展」(会期:2025年4月18日(金)-28日(月)、会場:TIERS GALLERY)。髙木秀太事務所が
「建築家のための建築家」として活動した近作10点を展示する予定。幾何処理、自動作図、シ
ミュレーション、3Dプリント、最適化計算、自動設計、生成系AI、、、いずれも高度なコン
ピューターテクノロジーを駆使しているけれど、必ずどのプロジェクトにも建築模型や1/1モッ
クアップ、加工サンプルなどをあわせて展示する構成になってる。僕らの最終目標はやっぱり
リアルな建築。デジタルは大切な相棒だけど経由地点でしかないんだ。そんな大切にしている
想いが伝わるような展覧会になるといいな。僕も毎日、在廊予定。ぜひ、表参道の会場でお会
いしましょう!
イラスト:溝口彩帆
建築家になりたい
僕はあの頃の自分が幻滅しないような大人になれているだろうか。いや、やっぱりまだ十分
じゃない気がする。僕はしつこいんだ、それもとびきりに。最近、とある著名な建築家の先生
に「髙木さんや髙木事務所さんはこれからの目標とかあるの?」と聞かれたから、もちろん、
迷いなく答えた。
「決まっているじゃないですか、『建築家になること』です」と。