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コラム

BIMを利用した建築生産教育

2016.04.19

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

日本の大学における建築生産教育は、構法計画、工程計画・管理、積算などの科目が個別に設
置されているものの、それらがどのように関連しているのかを、学生が理解する機会が少ない
ように思われる。その関連とは、躯体工事を例にすれば、計画した構工法に基づいて算出した
数量に作業を割り当て、各々の作業に労務歩掛りと施工順序を設定し、技能者や建設機械の投
入量や平準化を考慮した工区分割を検討しながら工程を計画するような、施工計画の基本的な
流れである。この流れは、PERT/CPMに基づいたネットワーク工程を計画する知識や技法を学
習する際に部分的な事例を用いて触れているのだが、授業中に、建設工事の具体な事例で演習
する時間を取り難く、学生が、腑に落ちた理解をしているかに疑問が残る。そこで、筆者の研
究室では生産系科目の単位を取得した学部4年生を対象に、5D-BIMソフトウエアを利用した
「仮想施工計画」の演習を、サブゼミとして実施している。

5D-BIMソフトウエアにBIMモデルを読み込むと、オブジェクトのタイプ別に設定された、個
数、表面積、周長、体積などの数値が、オブジェクトごとに算出される。次に、施工する資材
や部材の名称を設定し、先の数値を利用した計算式を入力して積算をする。その後、計画した
構工法に応じた作業を設定し、それらと積算項目を紐づけ、労務や重機の歩掛りを設定する。
この状態で、BIMモデルに水平垂直の工区を設定すると、労務や重機の歩掛りと連動した施工
数量が工区の単位で分割される。そして、作業相互の順序関係を定義すれば、工程の基本デー
タができあがる。ここまで来れば、工区単位でシーケンシャルに進む工程や多工区同期化工程、
あるいは繰り返しの無い複雑な工程を自在に計画できる。計画した工程は、フローラインで表
現される。フローラインの傾きは、作業の速度を表しているので、傾きを急にすれば投入資源
である技能者の人数が増加し、逆の場合は減少する。また、工区をまたいで一本の直線で表現
されているフローラインは、その作業に従事する技能者に手待ちの時間が無く、平準化されて
いることを意味する。このように計画した工程の進捗は、4Dシミュレーションで確認できる。

5D-BIMソフトウエアで「仮想施工計画」、すなわち施工モデルを構築する手順は、施工計画
の基本的なロジックを踏襲している。要約すれば、BIMモデルのオブジェクトをベースに積算
した数量と、計画した構工法に基づいて作業順序を定義し、投入資源量を調整しながら工期を
検討していく流れである。各項目の検討結果をつなぐ手続きがソフトウエアに実装されている
ので、実務経験の無い学生でも、実際のプロジェクトを模した施工計画を容易に疑似体験でき
る。このことは、学生が、科目別に蓄えてきた建築生産に関する知識の統合的な理解に役立つ
と考えている。

この4月で、「仮想施工計画」のサブゼミを始めて3年目になる。昨年まで、最初に読み込む
躯体のBIMモデルは、研究室で構築してあったものを利用していたが、今年は、学生が設計す
ることにした。学生が、自分で設計した躯体の施工計画をする体験は、BIMが無ければおよそ
不可能と思われる。また、5D-BIMソフトウエアを使う以上、オブジェクト名称の付け方や、
UniformatやMasterformatなどのコード体系とLOD(level of development)との関係と
いった、生産系のBIMに欠かせない「Information」に触れざるを得ない。そこだけを座学で
理解することは、学生でなくても苦行である。所謂、CM(construction management)の
手法とBIMは、かなり深い関係にある。教育におけるBIMとBIMの教育を一体的に捉えること
で、未来の技術者育成に向けた、何か新しい可能性を見つけられそうな気がしている。
 

*本論は、『志手一哉,牧野能久,「建築生産教育における5D-BIM 適用の可能性」,日本建
築学会大会(関東)学術講演梗概集. 建築社会システム,pp.131-132,2015.9』を再編した
ものである。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授