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コラム

BIMマネージャーの立ち位置

2026.01.06

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

先日(2025年11月)、訪れたポルトガルの建設現場で驚いたことがある。仮囲いに掲示され
ていたプロジェクト説明の看板に、発注者と契約している企業名が並んでいたのだが、基本設
計、実施設計、コストマネージャーと共に、BIMマネージャーが記載されていたのである。
つまり、このプロジェクトにおいてBIMマネージャーは、発注者と直接契約する第三者の立場
として位置づけられていた。

そのBIMマネージャーへのヒアリングでさらに驚かされたのは、彼らが設計事務所やゼネコ
ン(以下、元請受託組織)に入力を要求する属性情報の内容だ。当人の回答は、「設計段階で
は発注者の予算管理に役立つ属性情報、施工段階では維持管理に役立つCOBieの属性情報」
と、いたくシンプルであった。もちろん、これらは発注者に対するBEP(BIM実行計画書)に
基づいた元請受託組織への指示である。「発注者のためにBIMデータを構築する」というBIM
マネージャーの役割をあらためて認識し、頭のモヤモヤが晴れた気がした。

この「発注者と契約するBIMマネージャー」の役割を日本のBIMに当てはめるならば、国土交
通省建築BIM推進会議が発行した『建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策
に関するガイドライン』に記載されている「ライフサイクルコンサルタント」に相当するだろ
う。私はこれまで、ライフサイクルコンサルタントの役割や業務の具体的なイメージを描けず
にいたのだが、「発注者と契約し、発注者のためにデータ構築を支援するBIMマネージャー」
と同一だと理解して腑に落ちた。そもそも「BIMマネージャー」という用語は多義的である。
プロジェクトを牽引する元請受託組織側でBIMを取り仕切る者もいれば、組織内のBIM推進部
門のリーダーを指すこともある。それらと区別して、発注者側のBIMマネージャーをライフサ
イクルコンサルタントと呼ぶのであれば、絶妙なネーミングであると言える。

2015年に訪問した米国カリフォルニアで、IPD(Integrated Project Delivery)を実践して
いるプロジェクトの発注者側プロジェクトマネージャーが、「プロジェクトのフェーズごとに、
最もBIMを効率的に扱える者をBIMマネージャーに任命する」と語っていたことを思い出した。
この場合のBIMマネージャーは、設計者であったり、コントラクターや設備サブコンであった
りするのだが、いずれにしてもIPDチームという発注者を主軸とした仮組織(ビッグルーム)
のメンバーから発注者によって選任される。このBIMマネージーの役割はIPDプロジクト
を首尾よく遂行することにあり、その視線は所属組織ではなく、プロジェクト全体の方を向い
ている。かたちは違えど、根っこの部分ではポルトガルで会ったBIMマネージャーと同じマイ
ンドなのだろう。

欧州の設計事務所を訪れると、事務所の規模にかかわらず、多くの所員のパソコンでBIMソフ
トウェアが立ち上がっている。彼ら彼女らが常にモデリングしているかどうかは別として、業
務の中で当たり前にBIMデータを使っているのだと思う。どの国でも、訪れた事務所のほとん
どでは、夕方6時にもなれば職員が職場をあとにしていた。BIMソフトウェアの「普段使い」
が効率的な仕事を支えているようである。こうした職場には、所員を技術面でサポートする
BIMマネージャーが存在する。彼らは、各職能や階級で身につけるべきBIMのスキルセットの
策定や、ISO 19650-1&2を参考とした社内基準・標準の整備を担う。また、ソフトウェアの
操作についても熟知しており、所員のあらゆる質問や困難に即座に応えていく。所員が参画す
るプロジェクトは、このようなBIMマネージャーが組織に居なければ回らないのだ。

一方、施工BIMは日本の建設業のお家芸である。特に、作業所長がBIMマネージャー的な役割
を自認している工事現場では、建設段階でのBIM活用が上手く回っているようだ。以前話を
伺ったある作業所長は、様々なBIMソフトウェアの機能や特性を熟知しており、プロジェクト
の特性に合わせたツールの選定を自ら行うだけでなく、現場に常駐する社員がそれらを操作で
きるよう学習素材まで整備していた。また、どの検討でどのようなBIMデータを要するか、所
内だけでなく専門工事会社やメーカーも含めて誰がそのデータを作成するか、何がどこまで決
まれば2D図面に切り替えるのかといったスケジュールを計画し、ファイルサイズの上限やそ
れに適したファイル構成まで考案していたとのことだった。こうした計画は、やれと言われて
急にできるものではない。いくつかのプロジェクトでの試行錯誤の結果、辿り着いた境地であ
ろう。詳しい方ならお気づきかと思うが、これら各検討の意味合いはISO 19650-2に書かれて
いることそのものである。ISO 19650シリーズを知らなくとも、目指すべき場所は同じなのだ
ろう。そうだとすれば、ISO 19650シリーズは極めて実践的なBIMガイドラインの国際規格と
言える。

繰り返しになるが、「BIMマネージャー」という用語は多義的である。しかし、どのタイプの
BIMマネージャーであれ、彼ら彼女らが居なければプロジェクトでBIMは機能しない。立場は
違っても、求められる能力の共通項は挙げられる。それは、高いBIMの知識、裁量と責任、
そしてマネジメント能力である。
 
話は変わるが、この文章を生成AI(Google NotebookLM)で画像と動画にしてみた。生成AI
は何でもわかりやすく説明してくれて偉いなと思う。
動画はこちらから(クリックするとYouTubeへリンクします)。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授