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コラム

個性とニュアンス
~データによる建物の分類と特徴付け考

2026.01.13

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

多数の既存建物を対象とした建物ライフサイクルマネジメントを行う場合、建物を分類するこ
とが評価や分析、FMの方針や整備計画策定に有効であることに異論を唱える人はいないだろう
とはいえ、ステークホルダーの建物との関係や立ち位置は多種多様であり、分類方法も建物の
見方や求める価値観によって大きく異なる。
 
建物の分類方法としてすぐに思いつくのは用途や規模、主要構造や所在地といったものによる
ものだろう。筆者の関わる情報通信事業のための建物であれば、通信用・事務用・その他で分
類することが最も基本的な分類方法の一つとなる。一般化すれば建築面積や延床面積をはじめ
とする建物の基本的な性能諸元での分類ということになるだろう。建物の基本情報をデータ
ベース化する際、このような要素を情報項目として設定することで分布や順位付けができ、管
理対象となる建物群の全体像を見ることができる。もう少し解像度を上げて、より詳細な性能
諸元、コスト、エネルギー、事業、資産……といった視点での情報を収集しデータ化すると、
建物群の全体像に加えそれぞれの建物の特徴が見えてくる。
これらの情報項目を組み合わせてクラスタリングをしたり散布図等で表示してみたりすると、
改めて建物群全体の特徴や個々の建物のポジショニングが把握できるようになる。色々と試し
てみると同じ領域での組み合わせだけでなく、一見関係のないような項目の組み合わせで思い
もよらないクラスタが現れ、新たな気づきや施策のアイディアの種が見つかることも少なくな
い。もし、まとまった数の建物を保有または管理していて、それらの建物の基本情報をデータ
ベースとして整備・管理されていのであれば、2つか3つの項目を色々と組み合わせてBIツー
ルでグラフ化してみることをお勧めする。
 
もう少しミクロな視点で建物を分類する際には、建物がどのような部位・機器で構成されてい
るかに着目すれば良いだろう。開口部や設備の種別・メーカー・型番・設置数・設置年月や、
各室・スペースの用途と面積といったものを集計すると、建物を特徴や性質で分類できるよう
になる。また、1㎡あたりの○○といったように、様々な視点で建物の構成要素やコスト等の
データを正規化してみると、建物の持つ性能やポテンシャルを見ることができるようになると
思う。
建物の構成要素のデータの多くはBIMモデルから入手ができる。勿論そのためのBIMモデルはOIR(Organizational information requirements :組織情報要件)に基づくAIR(Asset
information requirements : 資産情報要件)によって表されるAIM(Asset information
model :資産情報モデル)である必要がある。建物ライフサイクルマネジメントやFMで利用す
る現況BIMモデルや維持管理BIMモデルをどうやて作れば良いかという疑問に対する答えは
事業や建物維持管理においてどのようなレポーティングが求められるかそのためにはどのよ
うな建物データが必要かその建物データはどこから入手できるか、そのためには現況BIMモ
デルにはどのような建物データが搭載されていれば良いか……と辿っていけば、自ずと見えて
くる、ということになる。最初から網羅的で完璧なものを目指すのではなく、優先順位や範囲
を絞って最初から最後までの流れを作ってみると、OIR、AIR、AIMの決定プロセスがイメー
ジしやすくなるのではないかと思う。
 
建物ライフサイクルマネジメントのプロセスは維持管理を含む運用保守・FMと改修・改築・
新築のための設計・施工とに大きく分けることができる。建物の運用保守・FMではこれまで
書いてきた建物の分類手順により、建物群の中でのポジショニングと現況把握、それらに基づ
く課題抽出を通して整備計画を策定し、個別の建物に対する施策を立案する。勿論建物データ
をどこまで整備し構築するか、どこまで深掘りした分析をするかによっても内容や精度は異な
るが、建物データを整備・構築し、そこから新たな知見を読み解くことが、様々な視点からの
より効果的な建物整備・修繕計画策定につながることだけは確かだと思う。
一方、CREや既存の建物を対象とした改修や大規模修繕の設計を行う場合、設計者は建物の状
況やこれまでの改修によってどのような変更がされたかを情報収集・把握し、改修や修繕計画
を策定する。これまでの改修履歴を考慮する必要がある場合、改修では設計だけでなく、状況
に応じた適切な工法の選定も必要となる。設計者の持つスキルや経験数にもよるが、改修設計
の進め方を検討する際には、類似する建物、類似する改修工事事例を探して参考にすることも
少なくないことがわかってきた。改修の内容と対象建物が比較的標準的なものやよく見るもの
である場合、経験則や自身や周囲の知見でも対応できるがあまり事例のない特殊な空間構成
用途、工法、要件がある場合は経験や知見が不足する場合がある。その際、改修対象に類似す
る建物や過去の類似する工事事例を容易かつ的確に探索し参照したいという声も少なくない
 
このような背景と経緯から、建物や工事の類似性というものをどのようにデータ化し分類する
かが多量の既存建物を対象とする建物ライフサイクルマネジメントにおける建物データの整備
と管理の新たな課題となっている。とはいえゾーニング、スタッキング、空間構成、室構成
動線、工法、設計プロセス、改修のビフォー・アフター……といった情報は、従来のリレー
ショナルデータベース(RDB)ではなかなか表現が難しい。これまでは、構造化された自然言語
データをRDBで整理することで建物を様々な視点で分類してきた。しかし建物データの総体と
しては、さらに過去の工事記録や各種ドキュメントのような構造化されていない自然言語デー
タ、現況調査や竣工記録時の写真のような構造化されていない非言語データ、BIMモデルや図
面を数理モデル化した構造化された非言語データが必要となる。併せてこれらを統合し、横断
的に評価分析検索できるようなCDE(Common Data Environment)の構築についても検討
しなければならないと考えている。
 
様々な建物データを元に建物の特徴をデータで記述することができれば、CREや多量の建物群
における個々の建物に個性を与え、ニュアンス(ここではニュアンスを「言葉などに含まれる
微妙な意味合い」「音色や色彩などの微妙な違い」と同じような意味で使用している)による
違いを識別できるようになるのではないかと期待する。おそらくここから先はデータマイニン
グ・テキストマイニングに加え、AIという領域に踏み込むことが必要になるのかもしれない。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 FIMセンタ