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コラム

『建築雑誌』編集体験記その2

2026.05.21

パラメトリック・ボイス

               コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡

前回に引き続き『建築雑誌』2025年11月号の編集にゲストエディターとして関わった際の話
を記す今回は筆者が同席した3つの座談会についてである座談会本文の内容については
興味のある方はぜひバックナンバーにて読んでいただければと思うが、本コラムでは座談会
の感想や背景、関連する事柄について記したい。
 
座談会1「コンピュテーショナルなデザインと建築のかたち」
 
1つ目の座談会には、ヘザウィックスタジオの鶴巻崇さん、MAD Architectsの早野洋介さん、
株式会社ヴィックの石原隆裕さんと壁谷健一さんが登壇した。海外で活躍される鶴巻さんと
早野さんが東京で集まれるタイミングが残念ながら見つからずオンラインでの座談会と
なった
 
この座談会ではコンピュテーシナルデザインが活用された竣工建築とその建設に関わる話題
にフォーカスした。ヘザウィックスタジオとMAD Architectsの様々な作品をお話していただい
た後特にMAD Architectsのフニックス移民美術館とヘザウィックスタジオの麻布台ヒルズ
を取り上げて議論を深めた。そして麻布台ヒルズの施工に関わったヴィックのお二人から
務面でのお話を伺った。

 図1 MAD Architects、フェニックス移民美術館
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図1 MAD Architects、フェニックス移民美術館
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      図2 ヘザウィックスタジオ、麻布台ヒルズ
      ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイト
       へリンクします。

      図2 ヘザウィックスタジオ、麻布台ヒルズ
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フェニックス移民美術館の屋上に設けられた、ステンレスで覆われた曲面形状の展望台につい
ては、太陽光反射による熱の集まり方をシミュレーションした話が紹介された。また、麻布台
ヒルズの設計において多様な要件をまとめ上げる「システム」を、グラスホッパーやライノモ
デル、さらにはハンドスケッチまで併用しながら探求していった過程についても、大変興味深
く聞いた。
 
特に、まとめ上げる「システム」という言葉から、筆者には、Mark Burryが『Scripting
Cultures』*1で述べた、コンピュテーショナルデザインの四つの有用性の一つ ― 数理的ルー
ルによって設計に一貫性を与えること― が想起されたちなみに同書で挙げられている残り
三つの有用性は、パラメータを変化させることによる多様性、設計のルールと製造のルールを
合致させることによる合理性、多様な解の探索を探索することによる最適化である。
 
なお、このBurryの研究書は、筆者が博士論文においてコンピュテーショナルデザインの方法
論を整理する際、個別の設計技法ではなく、その設計過程全体を包括的に体系化しようとした
先行研究の一つとして参照したものである他の先行研究としては以前のコラムでも触れた
Rivka Oxmanによるパラメトリックデザイン思考の論文*2や、慶応大学SFCの松川昌平さん
の博士論文*3を取り上げた。
 
さて、座談会の話に戻る。ヴィックの石原さんは、複雑形状を製造・施工可能な部材形状へ落
とし込む際、単にコストや合理性だけを追求すると、四角いグリッドのような面白みのない形
態に行き着いてしまうと述べていた。そのうえで、設計者の求める意匠性と合理性とのせめぎ
合いの中で、適切な落としどころを見出すことが重要だと語っていた。
 
また壁谷さんも、こうした仕事における「最適化」とは、意匠と施工の最も良いバランスを定
めることだと述べていた。筆者もこれには大いに頷くところがあり、自身がコンピュテーショ
ナルデザインについて講義する際には、合理化とは唯一の正解を導き出すことではなく、意思
決定者に多様な選択肢を提示するプロセスであると説明している(図3)。

 図3 筆者が合理性と意匠性/複雑性のバランスを説明する際に用いるダイアグラム

 図3 筆者が合理性と意匠性/複雑性のバランスを説明する際に用いるダイアグラム


なお、ヴィックの具体的な仕事の内容は業務体制上、公の場で語れない場合が多い。しかし今
回はヴィックやヘザウィックスタジオをはじめとする関係各所の調整によって、貴重な議論を
誌面に残すことができた。尽力いただいた方々には深く感謝している。
 
座談会2「フォームファインディングとデジタルファブリケーション」
 
2つ目の座談会は、意匠建築史の流れにあるコンピュテーショナルデザインとは並行して、建
築構造史の流れから発展してきたコンピュテーショナルな手法であるフォームファインディン
グに焦点を当てることを意図して企画されたものである登壇者にはArupの後藤一真さん
法政大学と浜田英明建築構造設計の浜田英明さん東京都立大学とHUNEの林盛さんを迎えて
飯田橋のArup Tokyoオフィスにて開催された。
 
座談会では、浜田さんが語られた、磯崎新、伊東豊雄、SANAA(図4)との構造設計の仕事に
おける進め方の違いや、後藤さんが構造を担当された六甲枝垂れ(図5)の設計・施工のプロ
セスについての話を、大変興味深く聞いた。
 
特に印象的だったのは、そのプロセスにおいて、グラスホッパー普及前の時代であったため
Generative Componentsを用いたという話である。グラスホッパーが初めて公開されたのは
2007年だが、筆者も2007年頃にGenerative Componentsを利用しており(図6)、懐かし
く感じた。
 
当時のモーフォシス建築事務所ではGenerative Componentsプラグインのホストアプリケー
ションであるBentley MicroStationを、設計プロジェクトの共通CADプラットフォームとして
用いていたため、Generative Componentsの利用が進められたのである。
 
またその頃Generative Componentsの開発者であり後にRevit Dynamoの中核をなすDesign
Scriptを開発したRobert Aishによるワークショップにも参加した。なお、Robert Aishについ
ての記述はコンピュテーション現代建築史についての過去のコラムでも触れている。

    図4 内藤礼、西沢立衛、豊島美術館 写真:Epiq
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    図4 内藤礼、西沢立衛、豊島美術館 写真:Epiq
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    図5 三分一博志、自然体感展望台六甲枝垂れ 写真:松岡明芳
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    図5 三分一博志、自然体感展望台六甲枝垂れ 写真:松岡明芳
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 図6 独自JavaライブラリでモデリングしたNURBS曲面の情報を、Generative Components用
 スクリプトとして出力するJavaコードの実行結果

 図6 独自JavaライブラリでモデリングしたNURBS曲面の情報を、Generative Components用
 スクリプトとして出力するJavaコードの実行結果


林さんとは以前、ヴィックで開催された曲面形状座談会でお話ししたほか、国際学会
CAADRIA2025 Tokyoの運営などを通じても交流があった。また、筆者の論文博士審査で東京
大学の権藤智之先生に副査を務めていただいた関係で、権藤研究室で助教をされていた頃には、
たびたびお会いする機会もあった。今回の座談会では、伊東豊雄建築設計事務所時代に取り組
まれた川口市めぐりの森(図7)の曲面シェルの最適化の話や、権藤研究室でされた研究*4に
ついてのお話を聞いた。

 図7 伊東豊雄、川口市めぐりの森
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図7 伊東豊雄、川口市めぐりの森
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座談会3「デジタルは建築の『かたち』をどう変えていくのか?」
 
3つ目の座談会はコンピュテーショナルデザインあるいはより広義にデジタル建築における
技術や工学に還元されない側面や、未来の可能性について焦点を当てたものである。登壇者に
は京都大学、平田晃久建築設計事務所の平田晃久さん、東京大学の平野利樹さん、美術家の
小阪淳さんを迎え、西麻布の平田晃久建築設計事務所にて開催された。
 
平田さんのTree-ness Houseの建築形態の複雑性と階層性のバランスに、筆者は以前から強く
惹かれていたが、今回特に興味深かったのは、太田市美術館や小千谷市ひと・まち・文化共創
拠点ホントカ。(図8)の設計において、市民の要望や声を体系的に取り込み、設計プロセス
の一部として組み込んでいた点である。
 
その話から筆者には、クリストファー・アレグザンダーの『形の合成に関するノート』*5にお
ける、プログラム分析や要求分析の過程が想起された。その後の『パタン・ランゲージ』*6を
含め、アレグザンダーの提唱する設計手法は、コンピュテーショナルな手法で建築設計に取り
組む先駆的試みであった。
 
しかし、『パタン・ランゲージ』はコンピュータプログラミングの分野を含み、広く普及した
ものの、それらが想定していた分析と合成を行うコンピュテーショナルな設計手法は広まらな
かった。代わって一般化したのは、多くのパラメトリックデザインに見られるような、連続的
な数理関係に基づくコンピュテーショナルデザインであった。
 
アレグザンダーのコンピュテーショナルな手法が普及しなかった原因は、計算の連続性と離散
性について論じた以前の3回のコラムでも述べたように、連続的な数理で表されない与条件、
または演算が困難な言語や知識の情報を扱うにはこれまでの情報科学技術が未成熟であったた
めであると筆者は考える。だが現在、言語情報処理に長けたAI技術が急速に発展しつつある。
その意味で、平田さんの取り組みはその嚆矢とも言えるのではないかと感じ、大きな可能性を
覚えた。

 図8 平田晃久、小千谷市ひと・まち・文化共創拠点ホントカ。
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図8 平田晃久、小千谷市ひと・まち・文化共創拠点ホントカ。
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平野さんには、アメリカ現代建築の状況や、ご自身による生成AIを用いた設計の試み、さらに
はAI技術の可能性について話していただいた。
 
その中で個人的に印象に残ったのは、ライザー+ウメモト勤務時代に携わられた台北ポップ
ミュージックセンター(図9)と高雄港湾ターミナル(図10)の話であり、これらはいずれも、
筆者自身もモーフォシス在籍時に、コンペティション案のファサード設計を担当したプロジェ
クトであったことを思い出した(図11)。かつて同じコンペティション・プロジェクトで戦っ
ていたことに、不思議な同時代性を感じた。

 図9 ライザー+ウメモト、台北ポップミュージックセンター
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図9 ライザー+ウメモト、台北ポップミュージックセンター
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 図10 ライザー+ウメモト、高雄港湾ターミナル
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図10 ライザー+ウメモト、高雄港湾ターミナル
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 図11 モーフォシス、高雄港湾ターミナルコンペ案

 図11 モーフォシス、高雄港湾ターミナルコンペ案


近年は生成AIによるグラフィック作品にも取り組む小阪さんであるが、以前より数理的アルゴ
リズムを用いた複雑なグラフィック生成に取り組まれていた(図12)。
 
筆者は建築をUCLAで学ぶ以前、かつてラフォーレ原宿の裏手に存在した国際メディア研究財団
という、メディアアートとインタラクションデザインの研究所に研究員として所属していた。
当時は前田ジョンによる『Design By Numbers』の日本語版が出版され、Casey Reasと
Ben Fryが東京にProcessingを紹介しに財団に訪れていた頃である。その周辺には、数理的ルー
ルをプログラミングすることでグラフィックを生成するアーティスト達が集まり、数理秩序や複
雑性、さらには創造性とは何かについて、活発な議論が交わされていた。小阪さんの作品には、
そのような系譜の延長を感じた。そしてそれは、現在の筆者の設計観の根底にもある、当時の議
論によって育まれた感覚に強く響くものがあった。
 

 図12 小阪淳、f(p)
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 図12 小阪淳、f(p)
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以上、3つの座談会に関連する話を記してきたが、編集側の立場で座談会に参加するのは、筆者
にとって今回が初めての経験であった。そのため、どの程度発言すべきかについては常に迷いが
あった。登壇者の話が自然に広がるよう、流れに沿った簡潔なコメントを心がけていたものの、
実際には議論を整理して要約するような発言をして議論にブレーキをかけることが多く、議論を
盛り上げることに十分貢献できなかった点は反省している。その一方で、いずれの座談会におい
ても、編集側が意図したトピックへ議論を導きつつ、各登壇者に適切に話を振りながら議論を深
めていた、編集チームのリーダーである日建設計の勝矢武之さんの進行には、大いに学ぶところ
があった。
 
また、各座談会には、それぞれライターの市川幹朗さん、植林麻衣さん、久留由樹子さんに同席
いただいた。実際の座談会は誌面掲載分よりも長時間にわたるものであったが、話者の意図を汲
み取りながらわかりやすく整理された記事へまとめ上げていただいたことに感謝が尽きない
 
以上、2回にわたって『建築雑誌』編集体験記を記してきた。振り返れば、今回の経験は、新た
な人々や知見との出会いに満ちた、実に貴重な機会であった。このような機会を得られたこと
に、改めて深く感謝したい。
 

*1 Mark Burry, ed. Scripting Cultures: Architectural Design and Programming.
AD Primers, Wiley and Sons. 2011.
*2 Rivka Oxman. “Thinking difference: Theories and models of parametric design
thinking.” Design Studies 52, (2017): 105-22.
*3 松川昌平 『建築設計プロセスの進化論的枠組みにおけるアルゴリズミック・デザインの
プロトタイプ構築に関する研究』東京理科大学博士論文, 2017.
*4 Kazunori Nakayama, Hiroki Awaji, Yusuke Sakai, Ryo Yoshikawa, Sei Hayashi,
Tomoyuki Gondo and Toshiaki Kimura, “Auxetic Bending-Active Formwork System for
Free-Form Continuum Shells”, CAADRIA proceedings, (2025).
*5 クリストファー アレグザンダー 『形の合成に関するノート』稲葉武司, 押野見邦英訳,
鹿島出版会, 1964.
*6 クリストファー アレグザンダー, 『パタン・ランゲージ ― 環境設計の手引』平田翰那訳,
鹿島出版会, 1984.

杉原 聡 氏

コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 代表