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AIは街の「安全そう」を理解できるか
2026.07.14
パラメトリック・ボイス 大阪大学 福田 知弘
はじめに:AIは「都市の印象」を推論できるか
近年、AIの進歩によって、都市空間を画像から自動的に分析する技術が急速に発展しています。
特にストリートビュー画像や大規模言語モデル(LLM)の登場により、人が街並みを見たとき
に感じる印象や評価を、AIが理解できる可能性が現実味を帯びてきました。
都市計画やまちづくりの現場では、防犯対策やウォーカブルな環境整備、公共空間の改善など
を検討する際、「その場所がどのように見え、どのように感じられているか」が重要な判断材
料となります。しかし、こうした安全感や安心感は本質的に主観的なものであり、従来はアン
ケートや現地調査に多くの時間とコストを要していました。
本稿では、2025年に学術誌Citiesに掲載された筆者らの論文 [1] をもとに、街路画像とAIを活
用して都市の安全感を自動評価する研究成果を紹介します。まず第1章では、論文で実証され
た内容を解説します。続く第2章では、その成果を踏まえ、都市計画・まちづくり・デジタル
ツインへの応用可能性や近未来像について、筆者の考察として紹介します。
第1章 研究で明らかになったこと
街路画像×AIで読み解く「まちの安全感」
私たちは街を歩きながら、「ここは安心できそうだ」「少し不安を感じる」といった印象を無
意識に抱いています。しかし、このような安全感は主観的なものであり、従来はアンケートや
現地調査に頼るしかありませんでした。そのため、都市全体を継続的に評価することは容易で
はありませんでした。
そこで本研究では、ストリートビュー画像とGPT-4oをはじめとするマルチモーダルAIを活用
し、人間の安全感評価を自動化できるかを検証しました。大阪市と中国・成都を対象に比較実
験を行った結果、AIによる評価は人間の判断傾向と高い一致を示しました。
さらに、CLIPと呼ばれる画像理解AIとK-NN(近傍検索技術)を組み合わせることで、大量の
教師データや再学習を必要とせず、都市全域の安全感を高速に推定できる手法を開発しまし
た(図1)。従来手法を上回る精度を示し、広域かつ効率的な都市診断が可能であることを確
認しています。
分析の結果、人通りや建物、道路、交通施設が適度に存在する場所では安全感が高く評価され
る一方、人の気配が少なく建物密度が低い場所では安全感が低下する傾向が見られまし
た(図2)。また、緑地や空の見え方も一定量までは安全感向上に寄与しますが、多すぎると
逆効果になるなど、都市空間と安全感の複雑な関係も明らかになりました。
本研究は、AIが都市の見た目だけでなく、人々が抱く印象までも一定程度理解できる可能性を
示したものです。

図1 街路画像とAIを用いた都市安全感評価の流れ
ストリートビュー画像に対して、人間の代わりにマルチモーダルAI(GPT-4o)が安全感を評価
し、その結果を基準データ(アンカーセット)として利用する。さらにCLIPとK-NNを組み合わ
せることで、都市全域の安全感を高速に推定し、安全感マップとして可視化する。

図2 AIにより推定した都市安全感の空間分布(成都市中心部)
街路画像から推定した安全感を都市全域で可視化した例。安全感の高いエリアから低いエリアま
でを面的に把握できる。従来のアンケート調査では困難だった都市規模での継続的なモニタリン
グや、重点改善地区の抽出への活用が期待される。
第2章 実務はどう変わるのか
「都市の健康診断」が毎日行われる時代へ
これまで都市画像を扱うAI研究では、「建物」「道路」「街路樹」「歩行者」といった物理的
要素を認識することが主な目的でした。しかし近年のマルチモーダルAIは、その先にある「活
気がある」「歩きやすい」「安全そう」といった、人間が街並みから受け取る印象や意味まで
推論できるようになりつつあります。本研究は、その一例として、都市の安全感という主観的
な評価をAIが再現できる可能性を示したものです。
今回の研究は、単に安全感を自動評価する技術の開発にとどまりません。将来的には、都市の
状態をリアルタイムに把握する新しいインフラへ発展する可能性があります。
例えば現在の防犯対策や公共空間整備では、現地調査や住民アンケートによって課題を把握す
ることが一般的です。しかし、ストリートビュー画像や都市データを活用したAI評価が実用化
されれば、都市全体の安全感マップを定期的に更新できるようになるかもしれません。
さらに、デジタルツインと組み合わせれば、「街路樹を増やしたら安全感はどう変わるか」
「歩道を拡幅したら安心して歩ける街になるか」といった施策の効果を、整備前の段階でシ
ミュレーションできる可能性があります。
将来的には、SNS投稿、交通流動データ、イベント情報、防犯カメラ映像などと連携し、都市
の状態を継続的に把握する仕組みへ発展することも考えられます。安全感だけでなく、快適性、
活気、景観評価、歩きやすさなど、人々の主観的な印象を都市運営に取り込むことが可能にな
るでしょう。
もちろん、AIには地域文化や生活習慣を十分に理解できない場合があり、最終的な判断を人
間が担うことは変わりません。しかし、都市の状態を広域かつ継続的に把握する「新しいセン
サー」としてAIを活用することで、これまで見えにくかった都市の課題を可視化できるように
なるかもしれません。
人間が感じる「なんとなく安心」「なんとなく不安」を定量化する技術は、都市デジタルツイ
ンの次のステップとして、まちづくりのあり方そのものを変える可能性を秘めています。
[1] Zhang, J., Li, Y., Fukuda, T., Wang, B. (2025). Urban Safety Perception Assessments
via Integrating Multimodal Large Language Models with Street View Images, Cities,
Volume 165, 106122.

























