Magazine(マガジン)

コラム

BIM普及の鍵は「実践的な学び」と
「繰り返しの経験」-その3

2026.10.20

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

1年前の本コラムでも紹介した、ベトナム・ハノイの交通運輸大学(University of Transport
and Communications:UTC)コンストラクションマネジメント学科の学生と、芝浦工業大
学(Shibaura Institute of Technology:SIT)の生産系の学生による、BIMを用いた公共交通
指向型開発(Transit-Oriented Development:TOD)のワークショップでは、昨年から共通
データ環境(Common Data Environment:CDE)の演習を取り入れている。4年目となる
今年のワークショップでは、昨年の経験を活かしながら、CDEツールの機能をさらに一歩踏み
込んで実践することにチャレンジした。

2026年9月14日(月)~23日(水)に実施した第4回ワークショップのテーマは、「BIM for
Urban Rail Stations and Underground Development under the Concept of TOD(TODの
概念に基づく都市鉄道駅および地下開発のためのBIM)」であった。TODとは、公共交通機関
の利用を前提として組み立てられた都市開発のことである。日本では、私鉄沿線の開発や「エ
キナカ」に象徴されるように、TODを基盤とした都市開発が広く根付いている。一方、ベトナ
ムでは、TODの基盤となる都市メトロなどの整備が、まさにこれから本格化しようとしてい
る。TODが日常の一部となっているSITの学生と、これからTODという都市開発のあり方を経
験していくUTCの学生が混成で7つのグループを組み、地下街を含む駅周辺の再開発を題材と
したBIMワークショップに取り組んだ。

CDEを動かすのは「人」である
地上の建物はグループごとに完結した計画でよいが、地下街については、すべてのグループの
空間がつながるように計画しなければならない。そのためには、隣接する他グループのモデル
を外部参照できる環境が必要となる。一方、地上の建物についても、限られた期間でワーク
ショップを完遂するためには、BIMマネジメントを担うTA(Teaching Assistant)チームが、
各グループの状況や進捗を容易に確認できるようにしておく必要がある。これらの要件を満た
すため、TAチームはCDEの運用計画を構築した。
CDEツール上では、今回のワークショップのプロジェクトフォルダの下に、WIP(作業用)、
Shared(共有)、Published(公開)、Archive(アーカイブ)のフォルダを設け、さらにWIP
の中に各グループの作業用フォルダを作成した。各グループは、敷地境界を入力したファイル
を共通テンプレートとして作業を進める。BIMコーディネートを担う各グループのリーダーは、
毎日の作業終了時に自グループのモデルをチェックし、Sharedフォルダにパブリッシュする。
パブリッシュされたモデルは、他のすべてのグループから外部参照できるようになる。
BIMマネジメントを担うTAチームは、敷地境界を入力したファイルと全グループのモデルを同
時に表示し、各グループの進捗やモデルの不備をモニタリングする。問題があれば、必要に応
じて各グループに対応を求める。そして成果発表の前には、完成したすべてのモデルをTAチー
ムが確認・承認し、パッケージ化したうえでPublishedフォルダに格納する。
このワークフローを実現するため、TAチームはまずCDEツールの機能を学習し、想定した運用
シナリオを具現化するフォルダ構成を構築した。さらに、共通テンプレートを整備するととも
に、CDEツールの操作方法や運用ルールをまとめた資料を作成し、グループリーダーを対象と
した説明会も開催した。彼らの活動を通じて、CDEを活用したBIMワークフローを実践するた
めの知識だけでなく、プロジェクトの状況を的確にモニタリングする感覚、そして問題が発生
した際に技術的に対応する力が、BIMマネージャーには求められることが示された。

生成AIがデザインの「共有」を変える
今年のワークショップでは、急速に進化する生成AIの活用も興味深かった。BIMソフトウェア
は、建物のコンセプトやイメージを検討することを必ずしも得意としているわけではない。あ
るグループでは、エスキースやデザインコンセプトを紙にスケッチし、それをカメラで撮影し
て生成AIに読み込ませ、内観パースを生成していた。日本とベトナムの学生が英語でプロンプ
トを書き換えながら画像生成を繰り返し、「これだ!」と合意したパースを見ながら、BIMソ
フトウェアでモデリングを進めていた。このパースの生成では、プロンプトを調整しながら何
度も画像を生成する。その過程で、交通と建築の生産系を学ぶ両国の学生が、それぞれの頭の
中にあるイメージをテキストとして表出し、それを生成AIによって視覚化しながらデザインの
合意形成に至ろうとしていた。そのプロセスには感心させられた。
他にも、BIMソフトウェアでレンダリングした画像に生成AIで添景を加えたり、音声による即
時通訳を介してコミュニケーションを図ったりする姿も見られた。生成AIが汎用目的技
術(General-Purpose Technology:GPT)として、学生たちの設計やコミュニケーションの
中に自然に浸透しつつあることを、目の当たりにしたワークショップでもあった。

CDEと生成AIが支える新しい協働
CDEと生成AIは、ともに建築生産プロセスにおける「共有」を支える技術である。しかし、そ
こで共有されるものは異なる。CDEがBIMモデルを共有し、協働するための基盤であるのに対
し、生成AIは、関係者の頭の中にある、まだ十分に言語化・モデル化されていないイメージを
可視化し、共有するための媒介となる。
生成AIによって拡張されるのは、設計者個人の生成能力だけではない。むしろ、設計のより早
い段階から多様な主体がそれぞれのイメージを持ち寄り、その差異を確認しながら共通理解を
形成していくという、協働そのもののあり方ではないだろうか。


志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授