デジタル&サイエンス“アート”
2016.08.04
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
若冲の日本画をベースに、デジタル技術で3D化したCGアニメーションの映像を見た。
この画像の動きは大変魅惑的で、かつ、感動的。未体験の鮮やかさとクリエイティビティに溢
れる映像であり、そのインパクトに口が開き目を瞠り、そして記憶の襞の鮮明な刻印となった。
この魅力的な映像を創り上げたのが、猪子寿之氏が代表の「チームラボ」である。400人もの
集団で、個人ではなくチームによる制作を目指しているという。デジタル社会のさまざまな分
野へのチャレンジとプラクティス・訓練・研鑽を仲間とともに実践し、自らを育てていくプロ
集団であり、学際的で創造的なグループと位置づけている。アーティスト、エンジニア、プロ
グラマー、CGアニメーター、WEB・グラフィックデザイナー、エディター、数学者、建築家
などの多くの分野の若手が“超技術プロ”を目指し参加。その目的は芸術・科学と創造のバラン
スを達成するとある。蛍が光りながら引込現象で同期するようにチームも目的に向かって同期
するようだと表現した人もいた。今年、シリコンバレーのPace Art+Technologyでのオープ
ニングエキシビジョンで全20作品の大規模展を開催。ザ・ニューヨーク・タイムズ・スタイ
ル・マガジンは、「アートの見方を根底から覆す」と評したという。常設展が3月からシンガ
ポールで、8月からソウルで開催され、「お台場みんなの夢大陸2016」で、「Floating in
the Falling Universe of Flowers」の新作発表が始まった。直径21m高さ10.8mの超巨大な
ドーム空間で四季の1千万本を超える花々が時間と共に刻々と変化しながら咲き渡る宇宙が、
無限に広がるインスタレーション作品。
時を戻す。1993年、まだCG制作草創期のCMの話。ゆったりと歩く巨大なマンモスや動物と
槍を持った原始人が追いつ追われつつ、動物の地響きで原始人たちが崖っぷちから一斉に落下
したり、大きな動物にしがみついた沢山の原始人を振り落とすコミカルなカップヌードル
「hungry ?」のCMシリーズ。このCMディレクターで、日本人初のカンヌ国際広告祭グランプ
リを受賞した中島信也氏との酒飲み話では、デジタル技術のまさに初期作品であり、デジタル
スキルと最新デジタル機器を駆使した結果、初めて創りだせたと聞いた。その後、デジタル技
術が映像表現の主要な位置を占め、現在の多様な表現に発展し継続している。併せ、ここ2、
3年、各地でプロジェクションマッピングを見る機会が多い。この技術は意外に古く、1960年
代からあったという。初期のころより格段に進化した機器類やCGソフトとスキルの展開に伴
い、屋外でも明るく緻密で繊細に表現できるようになった。アートや演出、CM制作などで大
活躍の齋藤精一氏のライゾマティクスによる“Perfume”のライブ演出で、メンバーの動きと同
期したプロジェクションマッピングが行われ、最先端の表現技法として衝撃があり、再評価さ
れることになった。
そして今、前述のチームラボを含め、話題の村上隆氏のアート作品の制作やアナログとデジタ
ルが融合したストップモーションアートなど、多くのアートシーンでデジタルスキルと機器や
システムが大きくかかわっている。街頭では曲面にも対応できるデジタルサイネージでアート
やメディアの鑑賞も可能となり、結果、当然のこととして、アート、映像やグラフィック、建
築を勉強している学生の演習でのデジタルのスキル獲得は、さらに重要度を増しているといえ
る。何をどのように表現するのか、それを実現させるための学習は何か、あるいは、どのソフ
トやBIMなどの最新技術を駆使すれば、模型とモックアップの製作やイメージの実現が出来る
のか、永遠のアートは何?などなど。これには多種多様な選択と未知の世界があり、未来に向
けて、ますますその情報収集やスキル向上の必要性が高くなっている。
最後に、今、熱いアートイベントやメディアアーティストよる体感型など、日本列島の各地の
美術館やイベントでアートシーンが楽しめ、心を揺り動かされ、考えさせられる。猪子氏の言
葉を借りると「チームによる創造が重要で、これを共創と呼び、自分をその場に置く。人は未
来へ行きたく、故に未来を感じるアートがあれば、共感をする。ものを人は、目でなく脳で見
ているが、境界のないアートは世界の見え方を変え人類の価値の基準を変える。アートには物
質からの解放があり、人の心が動く。最先端技術とサイエンスとアートが融合し、インスピ
レーションが進化していく。それ故に、未来に賭けて、賭けて、賭け続ける。」と話された。
意味深く、共鳴する。