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コラム

米国で進むICTとコード体系による生産性向上

2016.12.08

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

これまでも多くの識者によって調査研究の成果が報告されているが、米国の建設業界には
Uniformatという部位別積算内訳書式のコード体系が存在する(例えば文献13)。正しくは、
業界団体制定の工業規格ASTMの「ASTM Uniformat II Classification for Building Elements (E1557-97)」という名称で、「建物仕様、原価見積、原価分析の基本分類」が主たる目的で
ある。Uniformatは、4階層のデータ構造となっており、Level 1の“Major Group Elements”、
Level 2の“Group Elements”Level 3の“Individual Elements”、Level 4の“Sub- Elements”
で建築の要素を分類する。

NIST(National Institute of Standards and Technology:アメリカ国立標準技術研究所)の
レポートには、Uniformatの概要が次のように説明されている。Level 1“Major Group
Elements”は、サブストラクチャ、シェル、インテリアなどの主要なグループ要素を識別し、
Level 2“Group Elements”は、例えばシェルを上部構造外装、屋根などに分類するごとく、
主要なグループ要素を細分したグループ要素に展開する。 Level 3“Individual Elements”は、
Level 2のグループ要素を個別の要素に分割したもので例えば外装には、外壁、外部窓、外部
ドアが含まれる。それらをさらに個々の要素に分割するLevel 4“Sub- Elements”では外部窓
の下に、アルミサッシ、スチールサッシ、木製サッシが位置づけられる。

また、Uniformatのコードは、Level 1がA~Fのアルファベットで、Level 2~3は各々が2桁の
数字で表現される。なお、Level 1の分類は、A:SUBSTRUCTURE(地中構造)、B:SHELL
(上部構造)、C:INTERIORS(内装)、D:SERVICES(設備)、E: EQUIPMENT &
FURNISHINGS(装置・機器類と家具)、F:SPECIAL CONSTRUCTION & DEMOLITION
(特殊構造物と解体撤去)である。

Uniformatの階層をBIMと照らし合わせるとLevel 3がオブジェクトのクラス、Level 4がオ
ブジェクトに該当する。BIMソフトウエアの場合では、引き違い窓、FIX窓といった窓の種類
でオブジェクトが提供されるので、選択したオブジェクトにLevel 4の番号を付与すれば、そ
の材質を定義したことになる(因みに窓の種類に対しては、OmniclassのTable23“Product”
のコードが予めオブジェクトに振られていることが多い)。

Uniformatは部位別積算内訳書式と和訳されている通り、その階層がそのまま見積り書式とし
て利用される。多くの場合、企画設計段階にLevel 3の項目で官積算や精算レベルの見積書を
作成するがこのような業務を支える仕組みが米国には整ている。例えば、米国のユニ
プライスに対する価格情報誌である「RSMeans Assemblies Cost Data」はUniformatの階
層で章立てし、掲載されている項目にUniformat Level 3の番号を採番している。また、建築
仕様書を作成するソフトウエア、施設の維持管理を支援するソフトウエア、アセットマネジメ
ントを支援するソフトウエアなど様々なソフトウエアでUniformatを利用できる。ベンチ
マーキングの視点では、Level 4の項目で実績データを蓄積していればLevel 3の部位レベル、
Level 2の工事部分レベル、Level 1の歩掛り単価レベルへと価格をまとめ、分析することが可
能である。

Uniformatのコードは、窓やドアといった部品だけでなく、壁や床といった現場施工で構成さ
れる部位にも用意されている。例えば、Level 1“C:INTERIORS”、Level 2“C10:Interior Construction”、Level 3“C1010:Partitions”、Level 4“C1010145:Drywall w/ Metal
Stud”という具合である。つまり、LOD(Level of Detail)が低い壁のモデルであっても、
UniformatのLevel 4の番号を付与することで、LOI(Level of Information)が高い壁を定義
することができる。同じことは構造体にも当てはまり、Level 1“B:SHELL”、Level 2“B10:
Superstructure”、Level 3“B1010:Floor Construction” Level 4“B1010240:Columns-
CIP”の番号を付与した柱のモデルは、一般階に設置された現場打ちコンクリートの柱となる。
一般的なBIMソフトウエアは、タイププロパティにUniformatのコードを記述できるので、
LODが低いBIMモデルを積算に利用できる。部位別に積算した後は、部位別だろうが工種別だ
ろうが好きなように集計して見積りをすればよい(このあたりの仕組みは他のコード体系との
連携が肝要なのだがそれはいずれ書くこととする)。いずれにせよ、企画設計の段階で部位
別のコストを把握できていれば、予算内に建設コストを納めていく設計のマネジメントは、
DBB、DB、CM@Riskなど、プロジェクト運営の方式を問わずやりやすくなるのではないだろ
うか。

Uniformatのポイントは、次の3つにまとめられよう。第1にコード体系が業界標準になって
いるので、1つのコードを様々な立場の技術者が各々の業務やそれに使うソフトウエアで利用
できる。第2に、原価分析を視野に入れた階層構造を成しているので、発注者・設計者・施工
者が検索しやすい。第3に現場施工の部位、メーカーの製品設備機器などが1つのコード体
系で一意に特定できる。これらは、建築産業でICTによる生産性の向上を具現化するための必
要条件ではないかと思う。


参考文献
1.サトウファシリティーズコンサルタンツ「海外建設コスト事情シリーズ(XVII)我が国と
 欧米主要国との設計段階での建築コスト管理業務の違い」
2.岩松準「建築コスト情報の調査と流通」、建築コスト研究 2010 SPRING
3.田澤周平、林晃士、志手一哉、蟹澤宏剛、安藤正雄「米国建設産業におけるBIMに関連す
 る標準・制度に関する研究」、日本建築学会第32回建築生産シンポジウム論文集(2016)

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授