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コラム

BIMによるコラボレーションに向けて

2017.04.25

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

設計のかなり早い段階からBIMに取り組むことができないかと思う。もちろん今でも、デザイ
ンや各種のシミュレーションでの3D-CADや3次元解析のソフトウェア、オブジェクト指向技
術を採用した一貫構造計算ソフトウェアなどが広く利用されており、設計のかなり早い段階か
らBIMソフトウェアが利用されていると確かに言える。それはさておいて、ここで私が考えた
いのは、BIMによるコラボレーションの視点で、設計のかなり早い段階からBIMに取り組むと
いうことである。

積算・見積や生産設計など、所謂、建築生産の立場では、意匠や構造の設計がある程度決まっ
た状態にならないと、図面をはじめとした設計情報を渡せないという場面に出くわす。これは、
不確定な基本設計が独り歩きすることを防ぎたいという設計技術者として当然持っているプロ
意識の表れと好意的に解釈できるし、確定した設計情報と施工ノウハウを融合させて整合性の
高い設計図書を効率的に纏め上げようとする建築生産側の責務とも相違しないのだが、ある種
の限定合理性に基づいた手続きと言えなくもない。なぜならば、ある程度の情報が確定するま
でには時間もかかるし、ある程度の情報が確定した後で生産側が工夫をしてもそれを採用でき
る範囲はさほど大きくない。また、説明責任を果たしうる合理的な発注契約方式を選択しよう
とする発注者の意思決定も、限定合理性に基づくと言えなくもない。説明責任を果たしても、
そのプロジェクトをリーズナブルに進めることができるとは限らない。ここで浮かび上がる問
題は、自らの職務に課された責務を誠実に果たそうとする各々の主体者による合理的な意思決
定の集合体であるプロジェクトが、全体として合理的であるとは限らないというパラドックス
である。

当然のことながら、各々の主体者が、自身の所属する組織の目的に対して合理的であろうとす
る限り、こうしたパラドックスは常に存在する。そして、それをBIMで解消できると言うつも
りは毛頭ない。しかし、BIMに精通した建築生産の技術者が、設計の各主体者に対して献身的
に振るまい、設計の各主体者がその好意を積極的に受け止めるような基本設計のチームができ
たらどうかと思いをはせることはある。このチームでは、図面が無い状態でもBIMモデルをど
んどん構築し、様々な業務に利用したり、ディスカッションをしたり、属性情報を構築したり
するのだが、各主体者は自らの職能に対するプライドに妥協をすべきでない。こうしたチーム
による業務は、基本設計と実施設計が融合したようなフェーズになり、結果として建設価格の
精度が格段に向上すると想像する。このチームにおけるBIMに精通した建築生産の技術者のこ
とをBIM Managerと呼ぶのかこうしたチームを率いる立場をProject Managerと呼べばよい
のか、彼らを発注者がどのような契約でプロジェクトに雇い入れることができるのかなど、わ
からないことは山ほどある。しかし、1つだけ言えそうなことは、設計のかなり早い段階から
BIMに取り組もうとすれば、プロジェクトを共同体として昇華させる、企業・組織の覚悟が必
要ということである。

参考文献
ハーバート A. サイモン「新版 経営行動―経営組織における意思決定過程の研究」ダイヤモン
ド社(2009)

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授