シンクロナスプログラム
2017.05.18
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 いま、ロボットを操作する技術で注目されてきているのが、シンクロナスプログラム
である。
竹中 シンクロナスプログラムとは、ロボット同士の動きを対話させ、複数台のロボットが
協調型の作業工程を実現することのできる技術だね。
岡部 その語源は、ギリシャ語の「syn(一緒の)choronos(時)」 にある。
つまり、時を共にするための同期プログラムなんだ。
竹中 ネットワークに繋がれた複数台のロボットは、相互通信することで協調しながら寸分
の狂いもないモーションを実現している。また、お互いの動きを予測し衝突や干渉を
未然に防いでいるのだ。
岡部 例えば、Bot & Dolly(映像制作会社。2013年にグーグルに買収された)が手掛けた
ショートムービー 「BOX」は、同期プログラムを駆使した高い制御技術が、圧倒的
な世界観を生み出している。プロジェクション映像の動きに同期して、ぴったりと息
を合わせて平板を動かすロボットモーションは、カメラを携えたロボットのフレーム
ワークと相まって、不思議な世界を描いてゆくのだ。
竹中 こうした複数のロボットの協働作業を実現しているのが、彼らが独自に開発した
「eCharla」と名付けられたソフトウェアなんだ。Python(パイソン。プログラミン
グ言語)をベースに開発された、計算世界と物質世界との公差を補正することのでき
る同期プログラムである。
岡部 そんな複数台のロボットによる同期技術は、今後、ものづくりの世界でも大変重要な
役割を果たすと考えられる。
竹中 そうだね。つまり、ロボットチームによる協働作業の実現だ。少数チームによる繊細
な加工技術手法や、大規模なチームによる複雑のモーションの分担、さらには相互の
干渉回避を始めとする軌道予測など、次世代のものづくりを担う重要な技術として、
今後大きく発展してゆくにちがいない。
岡部 ネットワークを介したリアルタイム対話術を通して、ロボット同士だけではなく、周
囲の環境状況や素材状態との対話をも実現する。次世代のものづくり社会は、そんな
豊かな同期技術によって支えられてゆくだろう。
竹中 そしてさらに、技術は進化している。人工頭脳の研究世界では、人の脳とロボットの
動きを同期させる新しい技術開発が進みつつある。専用言語を介すことなく、人とロ
ボットとの対話が直接行える時代。我々に求められている能力は、研ぎ澄まされた感
覚と厚い経験から生まれる豊かな創造性のみに尽きるのだ。