ロボットの触覚
2017.07.27
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の中で、デジタル信号化するのが最も難しいとされて
いるのが、触覚だという。
竹中 何故、難しいのだろうか。
それは、触覚と一言で言っても、その検知対象が様々だからである。
例えば、圧力や動き、温度など、人は多彩な情報を触覚から得ているのだ。
岡部 なるほど、人の触覚というのは、実に繊細かつ多様な能力を持っている。
ちょっとした凹凸や傾き、手触りの変化なども、肌で触れることで感覚的に把握する
ことができる。
竹中 現在、ものづくりの世界では、機械よりも人の触覚能力の方が高いとされている。
金属の平滑面を出す仕上げ作業は、人が行っているのが現状だ。
機械による平滑面の切削精度は、4/1000mm程度。これに対し、職人の能力はこれ
をはるかに超えた1/1000mmの精度を出すことができるからだ。
岡部 平らなものを削り出すことは機械の方が得意と思われがちだけど、実は人の能力の方
が優れているのだね。
竹中 触覚、さらにはそのフィードバックを得る触覚技術(haptic technology)は、人間
とロボットの協働作業が基本となる未来の世界でも、非常に重要となってくる技術と
考えられる。
岡部 つい先月、Wileyが出版しているマテリアルサイエンスの雑誌「Advanced Materials」
に、「3D Printed Stretchable Tactile Sensors(三次元プリントされた伸縮自在の
触覚センサ)」と題した論文が投稿され、話題になった。
竹中 ロボットの皮膚に直接プリントすることのできる生体スキンの技術だね。
もともとは外科手術をサポートするために開発された技術だが、今後、ものづくりロ
ボットへの応用も可能になってくるだろう。
岡部 触覚で得た情報を正確に数値化することができるという点においては、人の能力より
も高い技術を有している触覚センサの技術。今後は職人の感覚的な触覚能力とどのよ
うな協働作業を実現してゆくのかが楽しみだ。
竹中 触覚は、脳への刺激が非常に強く、人が持つ中で最も感受性の高いセンサである。
触覚の研究は未だ始まったばかりではあるが、こうした人の触覚能力を再現すること
が出来れば、ロボットが職人になる日も近いはずだ。