デジタルで出版も変化
2017.12.21
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
CAD・BIMなどの世界とは異なるディテール誌の執筆と編集委員を依頼されて、今年で30年と
なった。ホンダ本社の青山ビルの設計で、オープンジョイント工法とフッ素樹脂焼付塗装の
カーテンウォール(CW)やオフィス空間、役員室、テレビ会議室受付、ショールームなどの
設備やインテリアデザインに加え、台湾の54階建ての超高層のCWに、ユニタイズドシステ
ム工法を採用した。それぞれが当時としては珍しく、建築学会の外壁工法委員会で報告の機会
を得た。併せ、興味ある現場や建築を数多く巡っていたことなどと相まって当時の亀谷編集長
から声がかかり、オフィスの受付カウンター特集の88号(1986年春季号)からアーバンス
モールビル(編集会議での造語)、地下空間、100号(1989年春季号)記念誌など、いく
つかの特集ページの編集を経験。103号(1990年冬季号)から土松編集長のもとで編集委員を
委嘱された。2014年春季の創刊200号記念誌に併せ、渋谷のヒカリエで建築家の図面展示と
坂本一成氏を中心に講演会が同時開催され、活況を呈した。
30年前は、重要な要素のディテール図を烏口などでの手書きのインキングのトレース図をも
とにA4版の4倍の版下を作り、これを縮小しA4判製本としていたという。まさに職人的なア
ナログ手法であった。今では、DTPソフトの“イン・デザイン”などで編集から版下までを作成。
コンピュテーショナル化され、原稿もデジタル入稿が主体である。万年筆での原稿が何時ごろ
まで続いたか記憶も薄れた。1989年春季の創刊100号記念誌は、代表的な住宅建築の手書き
図面を載せた特集号。これと同時期に「建築ディテール集成」として、25年間に及ぶ優れた詳
細を5冊の別冊版にまとめた。この時の委員の方々と協議し、建築の種別や建築家、各部位など
のデジタル検索を可能とすべく、全てに、分類コードとナンバリングを付けアドレス化できる
ように将来を見据え編集した。残念ながらデジタル検索は、実現していない。最近、知人が、
建築情報を検索できるスマホ・アプリの試作中である。このアプリなどと連携が可能ならタブ
レットで確認も出来、設計や見学の際に役立つのではないかと今後の展開に期待している。
ディテール誌に載せるかどうかを決める編集会議での重要な基準は、建築がデザイン性に優れ、
美しく独創的であり、安定した納まりであること、などが挙げられる。各委員によって選ぶ建
築が異なることもあり議論が尽くされるが、前記の基準がベースである。最近は、熟練した技
術を要する鉋、鋸、鑿を駆使する大工さんを見かけないように、編集会議で取り上げる建築
も残念ながら既製品の組合せ事例が多く、コストアップや熟練工不足と老齢化などにより、特
殊な製作が困難になった証左といえる。片やデジタルコンストラクションの萌芽を見る思いも
ある。編集会議に提出されるプレゼン資料にも変化がみられ、CAD図やCGなどは一般的となり、
手書き図面は、見られなくなった。BIMデータの扱いも今後のテーマとなるかもしれない。
担当欄の「今日のディテール」は、1964年の創刊から確実で美しくデザイン性があり独創的
な建築と優れたディテールを載せている。その時代ごとの設計思想の究極表現である詳細を時
間軸で記録してきたが、この優れたディテールの建築には、経年劣化などでリフォームや
リニューアル事例も見られる。この更新に際して、これからの未来に何を継続し、どのように
リニューアルするかは、その時代と設計者の実力に掛かっている。新築よりも難しい条件もあ
り、これらの改修方法と工法、時代性やサスティナブル性など、課題は多い。この中で評価が
高いものをピックアップし、詳細をディテール誌でも採りあげ始めた。
現在は、12月中旬に発売予定の「ディテール誌215号」で、ホテル・旅館などの特集ページ編
集の最終稿中である。ホテルデザインの第一人者である浦一也氏にも執筆をお願いし、浦氏が
デザイン統括された話題の“走るホテルTWILIGHT EXPRESS 瑞風”の揺れなどに対応した浴槽、
限られたスペースでの工夫や評価の高いディテールを持つホテル・旅館の宿泊スペースなどを
掲載する。
今のデジタル社会に情報を発信する紙媒体の雑誌は、類似の役割を持つSNSやユーチューブ、
インスタグラム、スマホ・アプリなどとの連携の必要性が、より高くなっている。CDで3Dや
詳細データを付録とした建築専門誌も見られる。併せ、BIMなど3Dでデザインした建築を二次
元の紙面でどのように表現するかも現在のデジタル時代に問われているといえる。立体絵本も
あり、CDでの3次元との対になった出版物が、編集されるかもしれない。私も審査員に加わっ
た「Build Live Japan」のBIMによるコンペもこの11月にあったが、BIMデータで提出された
構想案の審査方法も今後のテーマとなるだろう。デジタル時代の出版や新聞、メディアでは、
検討すべき課題が数多くあるといえる。