BIMオブジェクトの属性情報に関する一考察
2018.02.06
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
BIMオブジェクトの属性をいかに記述すべきかを考えることは意外と難しい。例えば「窓」と
いう建築部品は、ガラスも含めた形状のBIMオブジェクトで提供されるのが一般的であろう。
しかし窓枠に取付けるガラスの種類は多様であり、複層ガラスや型ガラスの他、Low-Eガラス
かどうか、あるいは風荷重に対応したガラス厚さなど、その「窓」に求める性能で選択される。
なおかつ、窓枠とガラスは別の企業が製造・施工をしているため、窓枠の製造企業が作成した
「窓」のBIMオブジェクトは、窓枠に限ってその企業が責任をとれるBIMオブジェクトである。
それを配信する場合、その属性項目に、当該製品である窓枠の性能や仕様の情報を入力済みで
提供できるが、ガラスの性能や仕様の情報は含まれない。このことは、BIMオブジェクトに求
める要件が形状やカタログ的な利用であるならば、分類コードを付与しておけばあまり問題に
ならない、しかし、「窓」というサブシステムに対する属性情報を環境評価や概算などの業務
ソフトウエアで利用しようとする場合には、少し慎重に考える必要がある。結論を言えば、そ
うした設計業務に必要な属性項目を網羅的に用意したBIMオブジェクトの標準テンプレートが
あり、窓枠の製造企業は自ら供給する製品の性能や仕様は入力済みだが自ら供給しないガラス
の性能や仕様の属性項目の記述を空欄としたBIMオブジェクトを配信し、その空欄は「窓」へ
の要求性能や仕様を決める役割を担う設計者や技術者がそのBIMオブジェクトを利用する際に
埋めていくやり方が妥当である。
加えて、サブシステムを構成する主な部品の階層における上位に対する下位の部品の組み合わ
せを考慮する必要がある。「ドア」を例にとると、ドアの扉の開口を下位の部品とし、何も無
い(フラッシュ)、ガラス、ガラリ、などとすることで多様な機能をドアに搭載できる。こう
した上位・下位の部品の組み合わせと属性項目の対応は、モジュラーな構造を志向したIFCの
プロパティセットを属性項目に採用したNBL(NBS National BIM Library)の配信するBIM
オブジェクトが参考になる。ガラス付きドアのBIMオブジェクトは、IFCと称される属性項目
グループに、「ドアの共通プロパティセット」と、「窓やドアで利用するガラスのプロパティ
セット」の属性項目が併記される。もちろん、フラッシュ扉の場合は「ドアの共通プロパティ
セット」だけの表記である。しかし、それでも解決に悩む問題は、ユニットバスのような空間
を建築部品とした製品である。この場合、建築部品か衛生器具を共通プロパティにすると思う
のだが、それと壁・天井・床・浴槽・ドアなどのプロパティセットを併記して良いものか、ユ
ニットバスという製品に対するプロパティセットを新たに定義して良いものか、現在提供され
ているIFCの構造に明快な答えを見いだせない。IFCの構造はプロパティセットに自由度を許容
しているので、各国の事情に合わせたローカル標準のプロパティセットを追加する必要がある
と考える。むしろ、日本が誇る工業化部品はプロパティセットの業界標準を策定し、グローバ
ル標準のIFCの構造に組み込むための働きかけをbSJ(一般社団法人buildingSMART Japan)
が積極的に行うことこそ国策的に必要かもしれない。
BIMモデルで建物の性能や仕様を漏れなく記述した建物のスペックデータ一式を財務や維持管
理・運営部門に引き継ぐには、BIMオブジェクトに対するプロパティセットの併記に関する規
則の制定と関係者間における共有、属性項目の内容すなわち各部品の性能や仕様をどの段階で
誰が決めて誰が空欄を埋めるのかという建築部品のスペックに対する責任分担、それを実現す
るBIMモデルのセキュアな共有の方法、標準的なBIMオブジェクトを製品のBIMオブジェクト
に入れ替えるタイミングと責任者および技術的方法を、プロジェクトの開始段階に決めておく
必要があろう。なおかつそれらは、発注契約方式やコストマネジメントのやり方に応じて変わ
りうるので厄介である。こうしたプロジェクトにおけるBIMに対する事前準備の作業をBEP
(BIM Execution Plan)作成の一部と解釈するならば、BEPへの要求仕様は発注者側から提示
すべきである。