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コラム

アジアにおけるBIMの広がり

2018.07.24

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

昨年はベトナムへ、今年は中国へとBIMの動向を調査しに行ってきたのだが、BIMに取り組ん
でいる現地の設計事務所やゼネコンへのヒアリングで感心したことがある。どのヒアリングに
おいてもBIMのモデリングのアウトソーシングやモデリング専属のオペレーターを用いずに、
社員がBIMソフトウエアを利用しているという。その理由は、積算やコストマネジメントなど
BIMの高度な活用は、技術者が自らBIMをドライブしなくては成し得ないと考えているからで
あったベトナムで話を聞いたゼネコンでは20名で構成されたBIMチームの半分を占める設
備技術者が設備のBIMモデルを入力し、VDCに取り組んでいた。この企業は、民間工事のデザ
イン・ビルドを志向しているとのことである。中国で訪問した建設現場では3名の社員で組
成されたBIM室を生産設計(中国では深化設計という)室の隣に設け、設備配管とLGSの補強
材との干渉チェックなど、設計・生産設計・施工の間を取り持つ役割を担っていた。建設作業
員がBIM室を訪れて納まりを確認していくこともしばしばあるそうである。中国の内装ゼネコ
ンを訪問した際には3Dスキャナで計測した躯体の点群データと設備を含む内装のBIMモデル
を重ね合わせて内装設計の最終調整をしていると説明を受けた。これらの「現場」で作られて
いるBIMモデルは、意匠・構造・設備で構成された、所謂、フルBIMのモデルで、かなり細か
いところまで作り込んで納まりを検討している。技術者が自らBIMを扱えば、自身の業務を楽
にするためのアイデアが色々と浮かんでくるということだろうか。
これらの国における現時点のBIMは、二次元の図面を元にBIMモデルを作成している段階であ
る。その一方で、政府が主導して設計におけるBIMガイドラインの整備を進めており、その内
容は、クラシフィケーションシステムの定義など、ファシリティマネジメントやスマートシ
ティを見据えたBIMを志向したものである。こうした基盤整備と現場のBIM活用がうまくかみ
合えば、数年後には本格的なBIMが普及していく予感がする。
 
今年の春に実施したマレーシアの大学とのワークショップの一環で、BIMを推進している政府
系の機関を訪問したここでは英国のPAS1192-2を手本としたBIM標準やBIMライブラリの
整備すすめているだけでなく、実務者向けにBIMの講習や資格認定を行っている。英国の影響
を強く受けているためか、そのやり方にややかたい印象を受けるものの、理路整然としたビ
ジョンは聞いていて気持ちが良い。この国で現地企業のヒアリングを実施できていないため、
実務でBIMの利用が進んでいるかどうかを私は知らないが、こうした取り組みを聞く限り、普
及の息吹を確実に感じられる。これらの国におけるBIMの取り組みを垣間見て思うことは、ア
ジアでは様々なタイプのBIMが広がりつつあるということである。


 

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授