Magazine(マガジン)

コラム

BIMを難しく考えないで

2018.09.20

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

普段、電卓を使っている人がExcelのような表計算ソフトウエアを導入しようかどうかを迷う
ことは先ず無いと思う単純な四則演算を行うだけならば電卓で計算する方が手軽で早いのだ
クロス集計のように複数の計算を組み合わせる場合は表計算ソフトウエアを使う方が効率
的である加えて計算式が組み込まれたテンプレートを配布すれば、規定に沿った書式の書
類を誰でも簡単に作成できるまた関数やピボットテーブルなどを利用して短時間でデータ
を処理していることも多かろう。さらに、若干のプログラミングができれば、センサやRFID
など外部デバイスのデータを効率的に処理することもできる。表計算ソフトウエアに関連する
機能はあまりに豊富で、全てを使いこなすには相当の探求心が必要と思われるが、必要最小限
の機能を使うだけでも電卓に比べて効率的に仕事をこなすことができるし、知っている機能が
多いほどチームの生産性を向上できる。

この電卓と表計算ソフトウエアの関係は、CADとBIMソフトウエアの関係によく似ていると思
う。1枚の図面を描くだけならばCADの方が手軽で早いのだが、平面・断面・立面のように複
数の図面を描く場合にはBIMソフトウエアを使う方が効率的である。加えて、各種の設定が組
み込まれたテンプレートを配布すれば、規定に沿った表現の図面を誰でも簡単に出図できる。
また、集計機能などを利用して短時間でデータを処理していることも多かろう。さらに、若干
のプログラミングができれば、アルゴリズミックデザインで多くの案を効率的に創り出すこと
もできる。BIMソフトウエアに関連する機能はあまりに豊富で、全てを使いこなすには相当の
探求心が必要と思われるが、必要最小限の機能を使うだけでもCADに比べて効率的に仕事をこ
なすことができるし、知っている機能が多いほどチームの生産性を向上できる。

筆者が社会に出たのはWindows95が登場する数年前で、初めて貰った賞与をはたき、
PC-9801NS/RというOSがDOSのノートパソコンを40万円程度で購入した。このパソコンに、
表計算ソフトを購入してマンション内装工事の工程計画におけるタクトの自動計算や内覧会指
摘事項を自動整理するテンプレートを作成したり、フリーのCADで住戸の平面詳細図と木軸施
工図を重ね合わせてチェックしたりして、業務に利用していた。当時に高価なパソコンを購入
しようと思った動機は、自分の仕事を楽にこなしたいという想いだけである。若かりし頃にパ
ソコンにかけた費用と時間は、後の人生で有り余るほどに回収できていると思う。

いま、働き方改革が叫ばれているが、時短のための業務改革や規制の強化に先んじて、ややレ
ベルの高いIT技能の修得を推進する必要がある。同じソフトウエアを使って同じ成果物を作成
するにしても、数時間かかるやり方もあれば、数十分で片付けられる方法もある。そこに簡単
なプログラミングを組み合わせれば、データの移送作業を自動化するなど、プロセスの「カイ
ゼン」ができる。高度な道具や機能を使いこなさずに仕事の効率が上がるわけもないし、よく
知らない道具の便利な使い方を思いつくはずもない。ソフトウエアを使いこなして単純作業を
一瞬で片付けたり、少しのプログラミングで業務フローに散在するつまらない手続きを自動化
したりすることを、自ら「できる人」と「できない人」の生産性は何十倍も違う。いくばくか
の公的/私的な費用と時間の投資を通じ、現業部門の「できる人」を増やさない限り業務の効
率化は望めない。BIMモデルの構築をアウトソースすることの罠がここにある。

BIMはプロセスでもあり道具でもある。BIMソフトウエアを便利な道具として使える人材だけ
がプロセスのカイゼンを具現化できる。費用対効果など大それたBIMのメリットではなく、
BIMソフトウエアで何ができるかを探求するように、人も企業もマインドチェンジが必要であ
ろう。特に小規模な組織こそ、導入できない理由を色々と考えるよりも、難しく考えないで便
利に使う感覚で取り組んでみてはどうかと思う。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授