建築デザイン/スケッチ・模型・BIM
2018.12.18
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
美大卒の私は、手描きスケッチからデザインを始める。事務所だけでなく、電車や会議中、ウ
イスキー片手にJazzを聞きながら手を動かしたりもする。しかし、今やコンピュテーショ
ナルな手法での3Dスケッチ、シミュレーション、CAD・BIMでの作図、分析・解析、製
作、施工、プレゼンテーションなどの各領域で有効かつ不可分であると承知もしている。そこ
で、建築デザインでの空間把握や空間創り、デザインプロセスについて、模型やCAD・
BIMも含め再考察してみた。
デザインのスタート時は、まず、イエローペーパーやムサビ・グッズのミニクロッキー帳での
エスキーススケッチ。手を動かしながら、重要な脳、目、神経、筋肉、血流、指・手、知識、
経験、感性を覚醒させ活性化させる。このスキマティック・デザイン段階では、計画・設計の
条件や資料データを基にフリーハンドスケッチの繰り返しにより構想を練る。手を動かしなが
ら、多角的に俯瞰し、空間や形状のイメージを膨らませ、創造的なアイデアと閃きを引き出す。
樹木や植物、犬猫、子供、大人、異性、構成家族、ユーザー、音、風、光、影、闇、素材、構
造、設備、敷地環境の分析・歴史など、計画条件の調査、確認、想定や想像も重要である。次
に、これはと考えるエスキーススケッチを基に検討用の模型を策定する。模型での検証は、コ
ンピュータが最も苦手なパターン認識に強いという特徴があり、一瞬で全体を掴みとることが
出来、プロジェクトチームの各自が視点を探し出し空間の把握や気づきを促すとともに、形態
などが確認出来る。自由に視点が選べるために他の人がどこを見ているかは判らない。重要な
のは、実際に見る目の高さや高台、遠望などの視点での検証だといえる。内部模型だと超小型
カメラで検証することも可能であり、視点側を動かし選びながら検討する。従って、模型から
受けるイメージは各自で異なる。この手法が多角的な検証となり、効果的といえる。因って、
修正箇所にチームの多くの人が気付く可能性が高い。エスキース段階での模型の活用は大変重
要であり、結果、立体的に把握とイメージを促し、創造性に繋げる。今では、エスキーススケッ
チ・模型とパラレルにCAD入力が進められ、模型用の図面もCADデータによる。最終段階
で確認する原寸のモックアップモデルも有効である。車のデザインでも手書きや3Dでのレン
ダリングでの検討と共に、実寸のクレイモデルのモックアップを制作。車のクレイモデラーの
手は、コンマ何ミリの違いが判るという。BIMデータなどによる3Dプリンターでの建築模
型も可能だが、未だこれといったものは高価であり、今は、医療系での活躍が著しい。建築の
設計での有効利用には、もう少し時間がかかりそうだ。
2016年の六本木の「21_21 DESIGN SIGHT」でのフランク・O・ゲーリー展では、エスキー
ス模型の壮観な展示に驚かされた。ゲーリー事務所の模型での検証の重みが感じ取れる。
一方、今では手描きエスキースに代わるスケッチ用3D・CADソフトも普及している。活用
のプロセスは、手描きによるエスキーススケッチと大きな違いはないが、手でのスケッチと異
なり、何案ものフィードバックと閃きが少なくなる傾向となる。当然のこととして、3次元複
合CADデータは、風や光、植生、法規検討、環境分析・解析、シミュレーション、3Dでの
基本設計、実施設計、ディテール、施工支援、製作へと継続進化させながら活用が出来る大き
なメリットがある。併せ、手書きや模型と異なりCAD・BIMでは、数多くのシミュレー
ションや複数の解析を瞬時に熟せる。これは、とても有効に働き、立体的な表現も自由であり、
平面、立面、展開図・他などとの連動も可能。日影や採光、風などのシミュレーションや計画
する植栽が20年後、それ以後の成長シミュレーションなどのランドスケープ計画にも相互乗り
入れ用のプラットホームを必要とするが、データ利用は可能であり、多くの事例も見られる。
施工では、コストと施工計画や検証に大きな力を発揮している。但し、エスキース時では、パ
ターン認識に強い模型検証とは異なり、CGの視点は画面側が動く、ここが模型とは異なる重
要点といえ、印象の良い視点を選びプレゼンをする傾向にある。テレビメディアの画面と同様
に同画面をすべての人が見ることとなる。アニメーションも同様にバーズアイなどの効果的な
視点や見せたいアングルを見せることが多くなる。車でのアプローチの見え方をCGで検証す
るなどは、得意だといえる。ただし、問題点を見過ごすことも起こり得る可能性もあり、少し、
怖い。クライアントの誤解を生じることも想定できる。とは言え、コンピュテーショナル領域
では、アルゴリズミック・デザインや大阪・関西万博の夢洲会場全体計画案で用いられたボロ
ノイ分割法やドロネー分割などを多くの解析が活用出来、大きな力を発揮する。近い将来には、
確認申請業務やコンペ、住宅設計などでBIMの活用が期待できる。現場ロボットやAIなど
との組み合わせによるデザインや施工も視野に入って来たともいえる。この状況下でBIM
データは、どのように有効に利用できるのだろうか。期待値は高い。
模型の圧巻展示で驚かされたフランク・O・ゲーリーの事務所は、2002年にゲーリー・テク
ノロジーズを設立している。提携したダッソ-・システムズとともに3次元CADでの新プロ
セスにチャレンジしていることでも有名である。コロンビア大学の教授も歴任されており、
「SHoP」の主要メンバーが、コロンビア大学の卒業生であることも頷ける。BIMの教育の源
流は、ここにもあった。
前述したBIMでの確認申請や実施設計、コンペも現実化する中で、教育と実務との乖離が大
きく、大学の建築教育の内容も変わりつつある。今年のArchi Futureで講演をお願いした広島
工業大学の杉田宗准教授は、今後、建築業界で最低限必要になるデジタル技術を3つのカテゴ
リーで教えている。そして言語と同じく、早い時期のマスターは、自分の世界を広げる可能性
が高いという。手書き図面や模型も重要であるが、デジタル技術は、アナログ手法を代替する
ものではなく、拡張させるものであると捉える必要があるともいう。教育の現場では、アナロ
グvsデジタルの議論ばかりが盛り上がるが、この10年の教育の質のUPには繋がっていなかっ
た、と問題提起されている。そろそろ議論には終止符を打って、教育は次のステージに向かう
時だとも述べられた。
「Archi Future 2016」でのフォスター事務所のプレゼンでは、25年前と5年前の設計環境が
劇的に変化していた。ワークスペースは、模型と共にデスクトップ型のモニターが主流となっ
ている。前述の手書きスケッチや模型とCADのどちらが優れているとかの問題ではなく、そ
の長所短所を知った上で、適材適所に利用すべきであり、教育でも然りだといえる。