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コラム

AI時代の「価値」と「個性」

2019.02.21

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

今月自分の娘が1歳を迎えました。彼女が働く時代は2040年代です。その時代にはAIが浸透
していると言われています。AIについての詳しい話ではなく20年後の未来の働き方について
考えてみたいと思います。

AIが自分自身で学習して、何かの問題に対して解決策を打ち出してくれる。仕様に沿ってAIが
プログラムを書くのでプログラマの職能がAIに置き換わる。これらは技術的にはどうやら可能
のようです。人が嫌がる仕事や複雑に計算が必要な仕事はロボットやAIにやらせればいいから、
調整役が必要な秘書的な仕事や接客を伴うコミュニケーションの役割は人が担うという話が聞
こえてきたり、どの職業がなくなるという予測が多くされています。

職業別の話になるとポジショントークになる可能性があるため、自分の業務周りの事象につい
て考えてみたいと思います。例えば、現在はオープンソースから拾ってきたもので何も理解し
ていないけど、どうやら良さそうな解決策を提案してくれるという状況が昔に比べて非常に多
くなってきます。AI時代には自分が考えなくても解決策が転がっていて、何も分からずにひと
まず使うということが今以上に多くなると思います。

あれだけ脅威だと言われているロボットも必ずティーチングモードの手動でテストランします。
産業用ロボットも何も教えられていないサラの状態を見ると、赤ちゃんの状態で何も知りませ
ん。自分が今どこに立っていて、作業用平面はどこで、自分の手先(エンドエフェクタ)に何
を装着されているかも何も知らないのです。人も新しい技術に対して難しく考えすぎず、とり
あえず使ってみることで学ぶことも多いと私は感じています。スマホを使ったことがない人に
言葉で説明するのは能力が必要ですが実機を使って1分のデモンストレーションで便利さを伝
えることは言葉の表現力の乏しい私のような人間でもできます。

また、溢れるほどの情報から必要な情報を見つける「検索能力」や、コミュニティや分野ごと
のキーパーソン的な人を求めて実際に会って情報交換をするリアルの「交流会」が今よりも
重要視されるようになることでしょう。人と人との繋がりを作る仕組みやテクノロジーは常に
日進月歩です。飛脚から始まり、Email、携帯電話、SNS、どうやら人間はコミュニケーショ
ンに対する欲求を満たすためのテクノロジーが好きなようで発展し続けます。20年後は、何
かまた新しい技術で繋がりがある状態を体験できることは間違いないでしょう。

勉強方法に関しては、私が大学時代には大学の教授からはネットで情報収集することを禁じる
ようなことも言われたことも記憶に懐かしいですが、今やプログラミングに関していえば本よ
りもGitHub等でオープンソースに載っているものを直接見た方が説明等も詳しい場合もあり
ます。

このような環境で、何となく使って答えがパッと出た!というのは日常的になり、答えを出す
行為よりもその答えが本当に自分にとって正解率が高い解答になりうるかという判断を下す作
業というのが重要になります。現在にある技術でさえ、例えば食洗器、洗濯機、テレビ、ドラ
イヤー等、身の回り品を見てもそれがなぜ動くのか知らずに便利だから購入して使用していま
す。それらを購入する際は、ネット通販で購入者の声をみることができ、類似製品で溢れてい
るからこそ、どのドライヤーがどのように良いのか、その製品をレビューの内容とその評価を
している人の属性などを見ながら製品を購入するかどうか考えています。購入者(使用者)、
評価者、製品を作る者、物理的な製品だと明確に分けられますが、オープンソースのソフト
ウェアになると明確に分けるのが難しく、そのソフトウェアに詳しい人でないとそのソースに
関わる人がどのような役割の割合が強いかを知ることが非常に難しいです。できれば、自分は
ハードソフトに関わらずつくる側にいたいと願うものの、使用者、評価者も同等にソースに貢
献しているという意識があります。

誰かの実際の体験から集まるデータと、自分の属性という2つがより重要になり、売れている
数という数量だけではなく、個人のデータが判断基準になり、使用するシステムはどこが一番
情報を得られるかという量で次第に一極化しますが、個々の製品等は昔のような盲目的な爆発
的な人気商品というのはあまり生まれにくいかもしれません。

そのようなコミュニケーションにおけるテクノロジーは民主化を加速させています。無知の状
態でも使えるという領域が増えていくのは悪いことではないはずです。なぜなら既に身の回り
の便利なものも既にわからないことだらけだからです。むしろ便利というのは手間が省けたり
考えなくても簡単使えたり、それが便利ということなので正しいのです。ただ、判断するため
に自己対峙する習慣を常に持つべきだろうと思います。ひとまずやってみる、失敗するという
ことに恐れず自らをティーチングする習慣が大切なのだろうと思います。自らの体験という
一次情報をどれだけ増やせるか、それをどうフードバクするかがより重要になるでしょう。

プログラミングを通した自動化や機械による自動化の強みはまさにそこだと思います。完璧で
なくてもやってみて考える、そのスピードとフィードバックを回す数をどれだけ増やせるか、
自己判断で下した失敗をいかに積極的に捉えられるかがAI時代の向き合い方かもしれません。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役