社会インフラとしての「BIM情報プラットフォーム」
への転換 (建物のデータは、無限の資源になる
~BIM-FM PLATFORM ⑤)
2019.03.26
パラメトリック・ボイス スターツコーポレーション 関戸博高
経営的視点から「BIM的世界」について継続的に書いている。
これまでの4回では、どちらかと言えば過去から現在までの時間軸の中で書いてきた。
今回は近未来に軸を移して、「BIM的世界」を背景にどうすれば、新規サービス・新規事業を
開発できるようになるかを考えてみた。業界のことはよく知らないので、誰かが既に述べたこ
とと重なるかもしれないが、ひとまず私の考えを書いてみたい。
1.BIMの今
ここで触れたいのは、ソフトウェアとしてのBIMではなく、BIM情報の利活用についてである。
単純化して言うと、利活用については深掘りと横展開がある。ほとんどの企業が行なっている
のは深掘り、つまり各企業の現時点での業務のBIMによる効率化(合理化)である。そして恐
らく多くは、タコツボのような状態に陥っているのではないか。つまり、成果はそれなりに出
ているが、細分化された縦割りの組織内で、その成果を競っているだけで、横展開に思い至ら
ないのではないか。
BIMが分かっている人は、この状態は当然不自然だと思うはずだ。BIMの情報をもっと活用で
きるはずだと。
では、横展開とは何か。
それは組織や企業ごとにある専門性の壁(情報がつながりにくい原因)を超えて、先ずは設
計−施工図作成−施工管理へと情報を活用していくことである。しかし、この範囲では情報の
利活用と言っても最低限のことに過ぎない。設計施工の建設会社であれば、当然視野の中に
あるはずのことだ。
それさえも出来ていないと言う声が時々聞こえてくるが、それは経営戦略の課題であり、それ
に対する経営トップの実行力の問題である。本質的にはBIMの問題ではない。設計事務所が
BIMで図面を作成しても、施工会社が使ってくれない、そのため手間が掛かり無駄になるので
BIMには取り組んでいないと言うこともよく聞く。私はここに未来に向けての重要なテーマ
があると思っている。どのような場合でも、BIM情報が利用され、無駄ではなくなれば良いの
だと。
2.BIMの近未来
私が考える近未来における情報の横展開とは、各組織によって生み出された情報が、社会イン
フラとしての「BIM情報プラットフォーム」上を、情報変換(データコンバート)されながら
行き来することである。
例えば、設計事務所が作成したBIM情報をビル管理に使えるように、必要な情報を付け加えた
りLODを変換した上で、ビル管理会社に有料で販売・仲介すれば、合理的なビル管理ができる
ようになる。
または、会計システムに必要な情報を提供することで、固定資産台帳の作成や建物の減価償却
計算が容易になることである。更に継続的に改修履歴を付け加えれば、健康診断のMRIによる
検査と同様、常にその建物の健康状態が、言わば動的に把握出来るようになる。それに建物評
価のためのデータを掛け合わせれば、その建物の不動産としての現在価値が瞬時に出せるよう
になる。
・情報の横展開のイメージを図1で表現してみた。少し説明をしておきたい。
「BIM INTEGRATED INFORMATION PLATFORM」と名付けたものは、先ほど述べた社会イ
ンフラとしての「BIM情報プラットフォーム」である。直接的な建築生産分野とその外側にあ
る、言わば社会における情報の利活用の分野に分かれるが、いずれにしてもこのプラット
フォームを介して、情報が加工されながら利用者に渡されて行く。ここに新たな情報加工・仲
介ビジネスが無数に発生すると思っている。特に情報が価値を生み出すのは、ある情報が異業
種にまたがって利用され、新サービス・新規事業として機能する時だ。また、セキュリティー
が完備されたサーバも必要になる。
・では誰がどのようにしてそれを可能にするのか。
まずは、情報を加工する仕組みを作らなければならない。このような場合、企業は通常内製化
するか、外部のデータや知見を持っている複数の企業や専門家と連携して進めることになる。
外部連携して新サービスを開発する場合、問題になるのはどの企業と組むべきかや、進め方を
どのようにすれば良いかが見えていない段階だ。新サービスを開発する以上、先例は無いので、
社内もしくは社外でマッチングのコーディネイト役を担う人材が必要になる。
スターツは半年ほど前に様々な業種の企業・専門家とBIM–ECコンソーシアムを立ち上げ、受
発注における課題等を検討して来た。例えばコード体系の構築がテーマのひとつになって来て
いる。既存のコード体系との連携や、常にそれを磨き続けて行く機能の構築が不可欠だが、そ
のような機能をコンソーシアムのままでは具体的に推進できない場合、それを担う組織はどの
ように準備すれば良いか、ここでもコーディネイト役が必要になる。
上記はほんの一例だが、ご存知の通り今は新しい産業革命が進行中だ。確かに従来の業界の仕
組みや個人の職能が、あっという間に解体され意味が無くなる大変化の時代だ。そうならない
ように、むしろ変化を起こす側に立ち、新規事業のシーズを掴むのに、ここで言うBIM情報の
横展開が役立つと思っている。
ではどうすれば良いか。経団連では大企業の中に「出島」のようなフリーゾーンを作り、そこ
にベンチャー精神あふれる社員を集め、新規事業を立ち上げようと呼びかけている。それも
ひとつのやり方だ。ただ問題は、一企業内ゆえのモノカルチャーの中で掴めるシーズの幅だ。
そのパラダイムを超えることが可能か。
・推進イメージ
私の案は、その「出島」を社内ではなく、個別企業の外に作るというものだ(図2)。似たよ
うな形に、社会人を受け入れ産学共同研究を進める大学の研究室がある。そのような研究室の
代わりにテーマ別に仮想のプロジェクト・チーム(PT)をいくつか作り、そこに各企業からの
臨時出向者に参加してもらい進めると言うのが私案だ。臨時出向者と言う言葉で言わんとする
ことは、出向元の企業からオーソライズされた立場で参加してもらうことと、常時PTの一員と
して一定の場にいる必要は無く、必要な時にプロジェクト・ミーティングに参加してもらう
かたちをとることだ。大学の研究室にコーチ役として教授がいるように、各PTにもコーチ役と
して複数のベテラン(年配者と言うことではない)がつくようにした方が良いかもしれない。
そしてその全体をコーディネイトする組織が有れば、新しいシーズを見つけることが出来ると
思っている。
実際にBIM−EC コンソーシアムでは、約半年前から活動を開始し、少しずつ成果が出始めて
いるが、その運営は上記に近い形で進めている。
3.最後に
「BIM的世界」のかなりの範囲を、社会インフラとしての「BIM情報プラットフォーム(未だ
イメージの段階だが)」と定義し直すと、今回書いたような世界が見えてくる。「いずれこう
なるだろう」から、「こうしていこうよ」へと舞台が変わるのも間近だ。もうしばらくこの
テーマを追いかけたい。