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コラム

データとイメージとBIM

2019.05.30

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

筆者が施工管理や施工図などで建設プロジェクトに直接関わっていたのは、コンピュータの
2000年問題の頃までなので、今から20年近く前となる。それから急速にICTが発展したので、
現在はどうなっているか正確に分からないが、当時の生産情報の伝達はイメージ(画像)で行
われていた。例えば特記仕様書や仕上表・建具表は、テキストデータではなくCADを使って描
かれていた。設計図や施工図に書き込まれる部材構成などの注釈も、そこに資機材の分類と仕
様が漏れなく記載され、見やすく配置されているかが問題で、ある種の芸術作品を作成する心
意気で描いていた。総合工程表については、ネットワーク工程的な表現を使うのだが、アロー
が縦軸を行き来する様は、屋上から地下に至る建物を高さ方向に分割した部分をあらわし、工
事相互の制約関係を示す点線、揚重機の使用期間を示すバーチャート、マイルストーンに関わ
る工事を意味する太線、工事ごとの進捗をあらわす稲妻線などが美しく配置され、絵画のよう
な趣さえあった。こうしたイメージは、人が目で見て情報を容易に読み取ることに役に立ち、
現場ごと、担当者ごとの工夫も見られた。その一方で、イメージであるが故に、図面⇔仕様⇔
積算⇔WBS⇔工程管理などソフトウェア間でデータを相互運用して業務を効率化するような
ICTの活用には無力だった記憶がある。当時は、データによるソフトウェア間での伝達よりも、
イメージによるヒューマン間での伝達が重視されていた時代であった。

AIが普及して画像認識の精度が向上すればイメージをデータに変換できるようになるだろう
か。しかし、BIMで建築生産の様々な情報をデータベース化できる時代に生きる我々は、デー
タからイメージを生成するようなアプローチを考えた方が良いように思われる。アルファベッ
トの組み合わせではなく、カタチから文字を生み出して情報伝達をしてきた日本人は、イメー
ジで感性に訴えかける情報伝達の文化を捨てることに無理がある。だとすれば、データを扱う
効用とイメージによる伝達の双方を融合するような業務プロセスや情報システムへの進化を創
造していく必要がある。特定の目的を定めたBIMの取り組みは、その効果を得ることを超える
発展を期待できない。あらゆる情報の相互運用のプラットフォームとしてBIMを認識し直すこ
とは、古くて新しい課題である。古いが故に、データ利用の面において、欧米でその環境整備
が終わっていることも直視しなくてはならない。令和という日本だけが迎えた新しい時代の区
切りに、BIMに関するグローバル標準(データ)に日本の建築生産文化(イメージ)を擦り合
わせることを考えてみる必要があるのではないだろうか。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授