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コラム

地方とコンピュテーション

2019.09.03

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

平成21年に一般開放された約560haに拡がる自然豊かな那須御用地の「那須平成の森」近く、
100年以上の伝統があるにも拘らず、東日本大震災時の風評被害で一時閉鎖中旅館の再生計画
を2016年から進めている。八幡ツツジ群落の眺望と花の散策路を楽しめる自然豊かな環境で
ある。30年前にも那須の黒川で大規模地域開発プロジェクトで構想案を策定したが、今回の
計画とも重なり、住民や建築関係者と以前にも増して情報交換が密になった。

那須塩原市は、恵まれた地域とは言え他の地方都市と同様に人口も減少化を辿り、活性化への
課題は多い。人口約11万6,200人の栃木北部最大都市。殖産政策、那須疏水開削や開拓事業に
より、明治期に形成された比較的新しい都市だという。日本有数の温泉地を擁する高原観光都
市でもあり、歴史を踏まえた酪農も盛んで生乳の生産額が本州第1位だ。
この豊かな自然とロボット搾乳を実践する酪農事業などを背景に、街づくりや建築関連で新し
い試みが進められているが、インバウンドが増加している中国資本とも無縁ではないと聞いて
いる。事例の一つは、CO2を吸収する桐の植樹と成長、加えて、小型バイオマス発電や間伐
材の自然資源環境をベースにサスティナブル活用を目指す計画案であり、地域振興案でもある。
木材は時間軸材でもあり、地域雇用の増加も見据えているという。継続的な展開が出来ると、
製材、家づくり、木造家具、地域と都会の子供交流・教育、ICT系などに繋ぐことも視野に
入れている。この推進力は、人と豊かな自然、もう一方は、コンピュテーションを中心とした
最新最先端技術である。2024年からスタートする温暖化防止・森林整備の財源となる森林環
境税などを弾み車として、地域の活性化を着実に進めていくようだ。

この那須計画も含めコンピュテーションの重要性が地域でも増している。「building SMART
Japan」が、企画・主催し、昨年で11回目の小生も審査委員を仰せつかっているBIMによる
「Build Live Japan」 のコンペには九州地域最大規模という佐賀の松尾建設の設計チムが
トップの意向で初参加。本格的にBIMに取り組み始めている。Archi Futureイベントへの地方
からの参加者も増加傾向にあり、栃木でも次世代を担う学生の育成を目的にBIMを利用した学
生向けのコンペが開催されているようだ。最近は、地方の友人から“ビー・何とか”ってなぁ~
に、と聞かれることもなくなり、今後は、地域発のBIMの最新情報が寄せられる可能性も高い。

片や遠い遠~い宇宙領域で“はやぶさ2”が、活動中。高質のセンサーやAI、高度計、カメラ、
太陽光発電、通信、ドイツとフランスとのネットワーク連携、地球からのタイム誤差を見込ん
だコントロール精度などに最新技術で挑戦している。これらの技術は、地域活動にも自ずと転
用されていくものだろう。大きな成果を期待し、無事に帰還することを願っている。
因みに、この技術には地域での対応が寄与しているという。“はやぶさ2”の地方発技術として
河北新聞に紹介されている記事を借りれば、金属弾を地表に打ち込んで“おむすびころりん”と
名称された人工クレーターを造り、埋もれた鉱石を採集する難度の高い技術に取り組んだのは、JAXAの依頼を受けた福島県企業の日本工機白河製造所。東日本大震災で操業がストップ。し
かし、コンピュータを何とか稼働させ検討を繰り返したという。円錐形の容器はタマテックが
受け持ち、この両者で作業を分担し、人工クレーター造成の技術開発を進めてきた。このほか、
“リュウグウ”の表面温度を測る機器や地形を読む解析ソフト開発などに、日本初のコンピュー
タ専門大学の会津大も開発に加わっている。
他方、共同通信は、和歌山の串本町に、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本
政策投資銀行などが設立した会社が民間ロケット発射場を2021年に建設する計画だと報じて
いる。福井では、地場企業が主体となり開発している超小型人工衛星「福井県民衛星」が、
2020年に、ロシアのカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からソユーズロケットで打ち上げ
られることになったという。

最後に、現在の建築の設計・施工環境は全国一律にBIMへと動く爆発寸前状態。今やFAX・ス
マホ移行時のように一気に弾ける可能性も否定できない。地域と東京が、お互いにWin-
Winとなる相互信頼関係の構築が望まれるが、BIMのスキル需要で地域雇用を増やし優秀な
人材を育て貢献できないか。ワーケーション環境の展開もどうなるのか興味は尽きない。

  那須連山
  ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWikimedia Commonsへリンク
  します。

  那須連山
  ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWikimedia Commonsへリンク
  します。

松家 克 氏

ARX建築研究所 Gr.代表