「BIM的世界」の課題はDATAを活用出来る領域を
創造すること
2020.01.16
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
「BIM的世界」を経営的視点から繰り返し書いてきた。今回も2020年の新年のメッセージ
として、建設・不動産・金融業にとってBIM戦略が極めて経営戦略的課題であることを再度強
調しておきたい。戦略という以上は、極端な言い方をすれば従来の経営資源の何を捨て何を残
すのかを明確にする必要がある。しかし経営には惰力が働く。切羽詰らなければ戦略的な判断
を迫られていることに気付かないのが現実だ。国土交通省の旗振りもあり昨年末近くから、建
設業でも最大手中心にその辺りの発言が出始めている。
BIM戦略の本質は「DATA活用戦略」である。従って中心課題はそのDATAを活用出来る領域を
創り出すことになる。言い換えれば、ソフトウェアをどこのものにするとか、どうやって作図
するとかという技術的なことではない。BIMでの作図は手間がかかり、工事現場では2DのCAD
図以上の機能は発揮できないと嘆いていれば良いということでもない。そもそも「BIM的世界」
は、その次元で話をしてみても多分何も生み出さない。そのDATAを活用する領域を自ら創り
出すか、共同で活用する方法(プラットフォーム)を創り出すしかない。そうでなけれれば大
きな資金を投入できる企業によって建設に関わるDATAが独占される事になるのは近い将来の
必然だ。
自己宣伝になって恐縮だが、スターツはBIMを採用した7年程前からオープンなプラットフォー
ム作りを指向し、「BIM-FM PLATFORM」のコンセプトのもとに、システムを開発しサービス
を提供してきた。
そのオープン度合いは極めて間口の広いものにしているし、得られた知見を独占するつもりも
無い。参加する個人・企業がそれぞれの分野でDATAを互換でき、自分の仕事に生かせる様にす
ることの方が大切だからだ。それぞれの参加者はこのプラットフォームを利用し、そのDATA連
携により、更に新しいサービスを創り出せば良い。将来は「民主的」な運営母体がその為の
DATAベースを構築し、そのDATAを使い新事業創出の機会にしていければと思っている。本当
のオリジナリティはその先にあり、それこそが各企業の武器になるはずだ。それは、現状の日
本の建設マーケットで競争を考えるのではなく、これからは東南・南・中央アジアを視野に入
れた仕事の仕方を構築しなければならないと思うからだ。既に各地では、それなりのレベルの
建設会社が育っている。これから日本の建築会社が、単純に工事を受注しに行っても意味がな
い。「BIM-FM PLATFORM」の様な情報連携技術と共に現地建設関連企業と手を組み、異なる
次元でサービスを提供していくことが必要だと思う。20年代は日本建設業の出稼ぎ時代の始ま
りにならざるを得ないだろう。
今スターツの「BIM-FM PLATFORM」では、建設関連企業のBIM導入コンサルから点群情報を
活用した歴史的建造物のBIM化+免震レトロフィット、FM関連サービス、建物評価等々、その
領域が広がってきた。1年半ほど前に始めた十数社の企業による「BIM-EC コンソーシアム」も
そのひとつである。現在は実現場での実証実験に入っており、今後その数を増やしていく予定
だ。もちろんこの分野の可能性から言えば未だ緒についたばかりだ。それぞれが試行錯誤中で
これからもこの状態が何年も続くと思うが、少なくとも日本でこの様なビジョンを掲げて実行
している組織は無いと思うので注目してもらいたい。
さて、そんな大風呂敷で且つ問題意識という鋭い感度のアンテナを張っていると、様々な情報
が入ってくる。
例えばBIM DATAを現実の施工現場に最小限の人の介在でどう役立てるか、と言うテーマは、
常に新しい解決方法を見つけるゲームのような楽しさに溢れている。そんな事例をひとつご紹
介しておきたい。
年末休暇の直前に驚くべき鉄筋加工機が豊橋にあることを知り、新年早々、名古屋の鉄鋼や機
械を扱う老舗商社の岡谷鋼機(株)様に紹介を頂いて、豊橋に本社がある鉄筋加工等を主事業
とする(株)ディビーエス(DBS)様を訪問してきた。
現在スターツでは受注したRC造のほぼ100%をBIM化し、3Dの配筋詳細図も描いている。免震
の建物が多く、装置周りの複雑な鉄筋工事を含めて手戻りを無くすためだ。もちろん積算も自
動化している。
そんな中でずっと足踏みしていたのが、BIM配筋図・加工図まで出来ているのに実際の鉄筋加
工現場にダイレクトにBIM DATAが繋がらないことだった。従来の鉄筋加工業者の加工現場で
は、おそらく鉄筋加工のBIM DATAと加工機を直接繋げるようにするという設備の最新化・合
理化をするモチベーションと資金的な余裕が見つからない状態なのだろう。
しかしこの2社の連携はその先を行っていた。DBSの山本社長によるとこのテーマを10年以上
前から追いかけていたとのこと。最新鋭の加工機はイタリアのMEP社製でまさにFerrariのよう
な機械だ。驚いて夢中になっている内に現地で写真を撮るのを忘れてしまった為、DBS社の
ホームページから転載させてもらった。
ちなみにホームページではこの機械が稼働している動画も見られる。
この2社とさっそく実証実験に入り、BIM DATAとの連携を具体的に展開していくことにした。
即断即決行動が大切だ。この結果はまた後日レポートしたい。
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最後に以下に今年の年賀状を添付しておきます。
新年明けましておめでとうございます。
この一年も世界各地への旅を続けて来ました。
昨年古希を迎え役員を退任致しましたが、前世が回遊魚だったようで、
遊びも仕事もより面白い方へ、より楽しい方へと動きが止められません。
今年はこの数年追いかけてきた、インドでの不動産ネットワークやトルコ
への免震技術移転が具体化しそうです。
若い人たちと共に世界で仕事ができることは、回遊魚の喜びでもあります。
今年も皆様の健康で平穏な日々が続きますようにお祈り申し上げます。
関戸 博高