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コラム

BIMのある時代における建築ものづくりのひとつの
方向性

2020.02.20

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

ここのところDfMA(Design for Manufacturing and Assembly)という言葉をよく耳にす
る。DfMAとは製造業の開発現場で用いられる用語で、部品の製造を容易にするための設計
(Design For Manufacture)と組み立てを容易にするための設計(Design For Assembly)
という2つの考え方に基づいた、製品の設計と製作工程を統合的に考えて経済的に製造される
製品を設計することを目標にした概念である建設産業でも英国やシンガポルを中心に研究
や実践の取り組みが始まっている。DfMAには、レベル1:材料の「プレカット」、レベル2:
構造体や窓などの「コンポーネント」、レベル3:窓を含めた外壁パネルや設備竪管ユニット
などの「アセンブリ」、レベル4:バスルームや住戸などの空間をプレファブリケーションす
る「モジュール」の4つのレベルがあるとされる。

英国などでは大型パネル化した外装のモジュールをプレファブリケーションする事例を見聞
きすることがある。この場合、大型パネルをコンポーネント化したBIMオブジェクトを数パ
ターン用意しそれらの配置をシミュレーションしてファサードのデザインを検討する。この
場合設計者が発注者に要求をしてファブリケーターとプレ・コンストラクション・サービス・
アグリーメント(Pre-Construction Services Agreement:PCSA)を締結してもらい、設計
者とファブリケーターが共同で製作可能なレベルのBIMオブジェクトをモデリングしている例
もある。シンガポールでは、DfMAの有力な例としてPPVC(Prefabricated Prefinished
Volumetric Construction)と呼ばれる工業化工法が急速に増えつつあるPPVCとはオフサイ
トの工場で事前に内部仕上げや配線、配管などを完成させた自立型の空間モジュールを積み上
げて建物を建設する工法のことである。シンガポールのBCA(Building and Construction
Authority:建築・建設庁)は公営住宅(HDB)などへのPPVCの適用を推進し、その設計や
施工計画を支える仕組みとしてBIMを包含するVDCを位置付けている。

外装パネルの大型化やPPVCに代表される建築物のモジュール化は、BIMのコンポーネントや
工事発注パッケージ、サプライチェーンの在り方を変えていく。加えて、様々なデジタルツー
ルやプラットフォームを様々に利用できる環境は、建築家、技術者、技能者、利用者の垣根を
曖昧にしていくだろう。こうしたワークフローや産業構造の変化が兆しを見せはじめれば、
第4次産業時代の建築産業はかなり面白くなるのではないかと思う。

尚、DfMAの源流は日本にあると考えることもできる。1960年代の住宅部品開発、1970年代
の「パイロトハウス技術提案競技」や「芦屋浜構想住宅プロジクト提案競技」1980年代
の「センチュリー・ハウジング・システム」などには、DfMAと同じコンセプトが垣間見える。
こうした経済成長期の日本人が持っていたものづくりを変革するマインドに改めて光をあて
てみることもBIMのある時代における建築ものづくりのひとつの方向性として必要なのかも
しれない。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授