35歳成長限界説
2020.03.19
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
以前より、新しいことにチャレンジしていくことを最初から諦めている人が、40歳を境に急に
増え始めるのが気になっていた。
このことについて今回は少し脇道から話を始めたい。
トルコの不動産フランチャイズチェーン(RE/MAX Turkey)の運営会社会長のBenoさんと地
中海の北キプロスへ行って来た。Benoさんは85歳、私は70歳という高齢者のふたり旅だった。
しかしBenoさんは現役バリバリで、空手九段の強者だ。元々彼は一年ほど前に友人から紹介
され、懸案のトルコへの免震技術移転先の一つとして、話をしている最中である。彼はキプロ
スの不動産開発についても意見交換をしたかったようで、現地の不動産会社の人と連れ立って
色々な土地や施設を案内してくれた。延べ4日間、日本語無しの道中ではあったが、なんとか
会話は成り立った(つもりだ)。
キプロスへは日本人は多くは来ていないだろうと思っていたが、現地の人から見ると、旅行者
としてよく来る国のひとつということだ。このかなりマニュアックな島にまで、話題になる程
日本人旅行客が来ていると聞いて驚いた。ここのホテルは殆んどがカジノ付きのホテルで、そ
のせいかホテル代はイメージしていた額の半分ぐらいだった。日本人客は普通の旅行者とギャ
ンブラーの2タイプあるそうだ。ちょうど30〜40年程前のハワイのような感じで、欧州、ロシ
ア、中東、アフリカから人が来るようになっており、イスラエルから製造業の投資もされてい
るとのこと。北キプロスには大学も4校ありアフリカ系の若者も目立った。12,000人以上の大
学生がいるそうである。地中海料理は美味しく、晴天の日が続き、リゾートに良い土地がまだ
沢山ある。これから更に投資が進み土地が値上がりするのが感じられた。だが残念なことに日
系企業がここに投資をするイメージは描きにくかった。
今回話題にしたいのは不動産のことではなく、85歳のBenoさんのことを念頭に置きつつ、新
しいこと(過去に経験したことのないこと)に臨む年齢の問題についてである。
旅行中、別のトルコの建設会社のCEOと食事をしている時に話題になったのは、お互い新しい
技術開発をするとしたら頼りになるのは20〜30代だ、という話である。スターツもBIMを導入
してBIM-FM PLATFORMを構築しようとした時、30代をコアにスタートした(その後40代前
半まで幅を広げたが)。この会社は日本のプレキャスト・コンクリートの会社や米国のエンジ
ニアリング会社などから積極的に技術導入をしている。それぞれの国へ若い社員を留学させ、
単なる技術だけでなく英語で会話をできるようにし、かつ現地で人脈を作ることをさせている
ということだ。そして技術の強みを活かしてトルコに留まらず中東各国に進出しようにしてい
る。そんなに大きい会社ではないが大変アグレッシブな企業だと感じた。
振り返って日本企業はどうだろうか。
10年近く前に社員向けに「35歳成長限界説」を唱えたことがある。当時社長・副会長を10年
以上やってきて、多くの社員と接している中で感じた社員の成長傾向を表現したものだ。これ
は結構インパクトが有ったようで、未だに話題になる。
私がここで言いたいのは、「資質」と「自己訓練(自分への時間投資)」のことだ。若い社員
を見ていて、仕事を始めてから20代後半〜30代前半までは、プレーヤーとしての「資質」が
その人の成果を引っ張る。しかし、その間に「自己訓練」をしっかり行い、35歳以降の人生を
企画者の視点でイメージして準備しておかないと、「資質」が「年齢」とミスマッチを起こし
成長しにくくなる。「成長の限界」だ。特に今は過去の経験が通用しなくなり、新しい知識を
梃子に次の時代を見据えなければならない。その為の自分への時間の投資が35歳に向けて必要
なのだ。
20世紀の間はまだ先輩の背中を見ていれば良かった。団塊の世代もまだ現役で頑張っており、
その道が正解だと思える時代だった。だが今は違う。あらゆることに前例が無い。現在50代半
ばの人たちは、この20世紀と21世紀の断層の上で35歳を通過した。21世紀に向けてどのよう
なビジョンを持って臨んだのだろうか。現在その断層は上手く修復できたのだろうか。そして
今何を思っているだろうか。読者の皆さんも先輩たちに聞いてみてはどうだろう。
35歳が限界と言いながら、更におまけがある。「42歳限界説」と「47歳限界説」だ。ここで
は詳細は省くが、仕事の環境は変化し続け、ICTやBIMの世界は加速度的に変化しているため、
フツーに過ごしていたら40代〜50代の知識は相対的に保守的になってしまう。更に彼らはお
そらく過去の成功体験を身にまとってしまっている。そのようなものから脱皮するには、内側
から突き動かす何かが必要だ。それはどうしたら得られるのだろうか。
結論は簡単だ。85歳のBenoさんは大きさを感じさせる人だ。こんな小さな日本的な島国的な
世代論なんか全く気にしない。新しいものはドンドン取り入れ理解しようとする。
彼から学んだことは、「脱皮の原動力は好奇心」。
BIM的世界に話を戻せば、これからはBIMデータを活かす場を創出することに重点がおかれる
ようになるはずだ。その際どれだけの人が自分の専門外の世界に「好奇心」を持っているかが
重要になる。そして、その好奇心を共有できる人達が、ある種のコミュニティを形成し発酵さ
せ、具体的なプロジェクトにまで出来れば、そのムーブメントは世代論的限界説を超える創発
的空間を造り続けるきっかけになり得ると思っている。