風と新技術&アート
2020.05.12
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
現在、世界中は新型コロナウイルスによる未曾有の感染禍中であり、日本も含め不安定な状況
にある。危機管理上でのWHOの初期判断と対応、併せ、新感染症にしなかった日本にも油断
と意識の低さがあり、日本の検査体制や感染症対応の脆弱性も見えてきた。行政のドタバタ感
は拭えないが、航空会社や観光・商業・飲食業・製造産業・流通・エンターテイメントを筆頭
に歴史上最大の社会危機にあるといえる。国を含めた破綻もあるのではと危惧しているが、
約80年の歴史を持つ水月ホテル鴎外荘が、残念なことに、このコロナで約80年の歴史の幕を閉
じるという。併せ、驚くことにマスク生産を含めて日本の生活や産業基盤の中国依存が高いこ
とも改めて知ることにもなった。
このコロナは、新たな言葉や普段は聞きなれない文言で溢れた。最初は約120もの文言を拾
い上げたが、心が痛むワードもあるとの指摘を受け、多くを文章から削る結果となった。限ら
れた言葉を挙げれば、先ず新型コロナウイルス、そして武漢ウイルス研究所、蝙蝠発生源説、
WHO:世界保健機関、CDC:米疾病対策センター、パンデミック、指定感染症、ダイヤモ
ンド・プリンセス、専門家会議、飛沫感染、接触感染、感染防護服、アベノマスク、PCR検
査、抗体検査、クラスター、トリアージ、三密、オーバーシュート、ロックダウン、緊急事態
宣言、ソーシャルディスタンス、フィジカルディスタンス、濃厚接触、時短、外出自粛、治療
薬候補のアビガン、レムデシビル、イベルメクチン、早期の開発が期待されるワクチン、スマ
ホデータでの人出分析、ステイホーム、Web飲み会、オンライン教育、オンライン帰省、オ
ンライン設計、出口戦略、オンライン名刺交換、ウイルスとの共生など耳慣れない言語や文言
の数々が飛び交い、このウイルス禍の大きさが実感できる。既に現在迄で約39億人が自宅待機
状態になったという。余談だが、この状況下で台風や地震もあるかもしれないが、この時は躊
躇なく避難するのがベストだという。
この環境下でも台湾のIT企業の3月は、既にプラス業績に転じているという。台湾やニュー
ジーランド、韓国、スウェーデン、ブラジル、アメリカなど各国の対応力と姿勢には大きな差
があり、日本は多くの感染症を経験しているにも関わらず、事前の準備が万全では無かったと
言える。今後、早急に猛反省のもとに広く深く再学習をし、次への基本的な対応策の構築を期
待したい。
新型コロナウイルス禍で日本の日常業務形態の見直しが急遽進められ、今では多くの在宅ワー
クが実行されている。建築業界も例外ではなく、感染者が出た現在、出来うる限りの在宅ワー
クをと努力していると考えられるが、現場は人の手が主流であり難しい側面がある。現場の働
き手が減少していることと併せ、今後はさらにロボットやAI、リモート業務など、省人化と
無人化出来る作業のさらなる検討が必要となるのは自明の理である。
この状況下でこそ冷静にと肝に銘じ、意外と息苦しいマスク着用やソーシャルディスタンス、
消毒、手洗いの慣行を目指し、在宅ワークと時差通勤とで対応している。皮肉なことに中国で
は、温暖化ガスの二酸化炭素やPM2.5が激減し青い空が戻っているという。日本の対応プロセ
スを見ると台湾や韓国、ニュージーランドなどと比べ、生活環境からくるのか緩さが目につき
課題も見える。新型コロナウイルスへの日本独自の対応は、永く続く持久戦と考えられるが、
通勤自粛のネックとも言われる押印などの古き慣習から電子決済の採用や教育機関の9月入学
と始業の可能性、AIでの人の動向や状況分析、キャシュレス決済、eスポーツのバーチャル・
プロリーグの発展、無観客イベント応援対応の声援・拍手・合唱・口笛などが可能な新アプリ
などの開発、WEB会議のスキルアップ、将来の感染症への医療対応や備えの再検討など日本
に多くの学習課題とヒントや契機が与えられたと言える。油断していた故に難問を抱える日本
の基本構造の再構築が急務であり、デジタル系でも新たな発想のもとで開発が進むものと期待
している。
話はやっと本題。4月の日経産業新聞の見出し「日本海の風を風力発電に」が目についた。日
本海の海岸地域の強風を積極的に利用して発電、漁業、魚料理や観光振興も含め多角的に利用
しようという構想。SDGsにも呼応しているといえる。富山県の小さな町、入善町での取り組み。
風車で新たな潮流や漁礁にヒラメなどの魚が戻り、新たなメニュー開発への期待や日本海の激
しい風雨と波浪が織りなす風景が想像できる。♪~哀しみ本線~日本海~♪に風車が重なり、
絵や新曲にもなるかもしれない。秋田県でも秋田の財産として秋田産風力発電を目指して頑
張っている企業があるという。
世界の風力発電の取り組みで今は、1位は断トツの中国、そしてアメリカ、ドイツ、スペイン、
インド、デンマークと続く。日本の風力発電は、これらの国に比べると遅れた電力会社の取り
組みと政策によるものと考えるが、SDGsには程遠い微量の発電量である。
こうやって調べてみると日本は、感染症への対策も含め、世界が取り組んでいる先端技術の開
発や想定される災害や医療などへの準備に相当な遅れと支障を来しているとの感が、より強く
なった。感染医療現場では理不尽と感じた多くの人がいたのではないかと想像している。
話は再び飛ぶが、高校時代から彫刻が好きで彫刻家への道もと頭をかすめたことがあった。大
学時代から木内克氏の木彫と新宮晋氏の風で動く彫刻が好きだった。
「風の彫刻家」の愛称で国際的に活躍されている新宮氏の個展が2020年の3月15日迄フラン
スのロワールのシャンポール城で開催されたはずだが、この新型コロナウイルスでおそらく閉
鎖されたのではないか(「新宮 晋 - 現代のユートピア」展、シャンボール城)。横須賀美術館
でも「新宮晋の宇宙船」展が開催された。風をテーマとした「風のJAZZ」「風の能」など多く
の展覧会も開催された。
このテーマである風を利用した大型船を商船三井、東京大学、さらに、日本郵船や川崎汽船、
大島造船所などが新宮氏の彫刻に呼応するような風を孕む大きな凧を持つハイテックな船を開
発中という。以前に金属製の帆を持つ貨物船の開発があった。川崎汽船の新船は環境に対応し
気象観測システムと連動させMAX100tの推進力を得、燃料消費がおよそ20%軽減できると
いう。片や商船三井は、コロナ禍で遅れるかもしれないが、2022年から複合材料の硬い帆を持
つ「ウィンドチャレンジャー」の運行を開始するという。両者とも「風」をターゲットとし開
発のテーマとしている。
最後に米グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、この新型ウイルス後の
世界の姿は大きく変化しデジタル化が急速に進む契機になるのでは、と語っている。BIMも
リモートワークに適しているソフトと考えられる。一方、脳科学者の中野信子氏の朝日新聞で
の言を借りれば、『コロナの影響で美術館が閉館など、アートにとっては厳しい時期となりま
した。一方で、アートをいかに守っていくか、各国の姿勢の違いが浮き彫りにも。私はアート
が好きだし、これからの国力にもつながっていくと思っています。数字に表れにくい価値や目
に見えない価値に、私たちはどう向き合っていくべきなのか。考えるきっかけを作る挑戦をし
たいと思っています』-「美しいもの」の価値より。-の引用。
補足。以前のコラムで取り上げたアートに対する印象深い言葉を再び引用する。
「Archi Future 2018」での講演者の池上高志氏は、ICTやAIなどの最後に行きつくところは、
哲学とアートだ、という。
宮崎晃吉氏は、アートは、社会や自分との戦いがないと魅力がなく、現代では、ビジネスが社
会と戦っている感が強い。倉林靖氏は、インターネットが普及し、情報過多にいる人間の考え
方やものの見方が、どんどん浅くなり、アートに限らず、自分から踏み込まなくなるのはとて
も悲しい。
ノーベル生理学・医学賞の受賞の大村智氏は、美術愛好者には、長寿の方が多い。
などなど、いろいろな角度からのアートに対する意見や見解がある。コロナ禍に改めて確認し
肝に銘じたい。多面的な精神の育成と生活に欠かせないアートに期待したいが、コロナ疲弊も
著しいと考えられ、大きな空白を埋める永い時間が待ち構えている。しかしながら、日本の
ファンダメンタルズは、考える以上に強いのかもしれない。感染が蔓延したイタリア北部クレ
モナの病院屋上で日本人バイオリニスト横山令奈さんの演奏の様子をテレビで見た。気持が穏
やかになる感があり心に染みた。日本では、四季を通じた自然力とヘイトスピーチや偽情報に
惑わされない、日本人の底力を信じ新しい日本の歴史に期待したい。