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コラム

デジタルコンクリート構法

2020.10.15

パラメトリック・ボイス 

             アンズスタジオ / アトロボテクス 竹中司/岡部文

岡部  建築における技術の精度はコンマミリ単位の世界に突入し、道具は確実に進化してい
    る。世界の先進建築界では、そんな技術の長所と短所に注目し、これを上手く組み合
    わせた構法の研究が粘り強く続いている。
 
竹中  だいたい2015年前後くらいからスタートした研究が主で、あれから5年ほど経った現
    在はそれぞれの構法がようやく確立し、各技術についてスタートアップ企業を設立す
    るまでに技が安定してきていると言える。
 
岡部  たとえば、Gramazio Kohler Researchで開発されている新しい製造プロセス
     「Eggshell」と名付けられたデジタルコンクリート構法がある。今年はじめには、ス
    イスのエスリンゲンにあるコンサルティング会社の中庭に建てられたキャノピーの柱
    部分において、実際に施工された。
 
竹中  この構法を可能にしたのは、ロボットアームを使った3次元プリンタの技術だ。
            1.5mmの均一な厚さでつくられた超薄型の型枠は、まるで薄い皮膚のような様子が
    特徴的だ。これに速硬コンクリートを流し込み、コンクリートが硬化したあとは、そ
    の薄い型枠をペリペリと剥がせば完成である。
 
岡部  Eggshell構法を用いれば、複雑な形状や細やかな表情をもつコンクリート構造物を美
    しく再現することができるようになる。大掛かりな型枠を必要としない、いわば「自
    由型枠」の技術だと言えるだろう。同じものを複製する必要はなく、全て異なる多様
    な表情をもった豊かな建築物を創り上げることができる。
 
竹中  ここで注目したいのは、彼らが3次元プリンタの特性を良く観察しているという点に
    ある。3次元プリンタは、自由な形を作り出すことに特化している一方で、空間を充
    満させることに多大な時間がかかる。さらには、強度を出すことも得意ではない。
    これをうまく払拭しているのだ。3次元プリンタは造形するものであるという先入観
    を取り払い、型を作るものだという発想にうまく変換している。3次元プリンタとコ
    ンクリート技術のハイブリッド構法だと言えるだろう。
 
岡部  技の特徴を引き出す地道な作業の先には既存の手法を「単に」自動化することを凌
    駕した真のデジタル技術の世界が広がっているね。
 
竹中  そうだね。建築構法に関わる個々の動作において、それらの工程を自由にさせるテク
    ノロジーの特徴を引き出す。新しい技術が安定した今、私達はひとつの手法にこだわ
    ることなくどのように技を融合させてゆくか― これまでの固定概念を超越した自由
    な発想が求められる。

 Eggshell, ETH Zurich, 2017-2022 / Gramazio Kohler Research, ETH Zurich
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のvimeoへリンクします。

 Eggshell, ETH Zurich, 2017-2022 / Gramazio Kohler Research, ETH Zurich
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のvimeoへリンクします。

竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役