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コラム

南三陸町中橋開通に想う

2020.11.17

パラメトリック・ボイス          隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

先月、南三陸町の八幡川にかかる中橋が開通した。
南三陸町には2013年より、志津川地区のグランドデザインで関わらせて頂いている。東日本
大震災によって大きなダメージを受けた南三陸町の志津川地区に、新しい町を計画することが
この業務の内容である。計画当初から、今後発生する津波に備えて、エリア全体を10m程度
嵩上げすることは決まっており、また住宅地を高台に移転させることが決まっていたため、新
しい町に賑わいをどう作っていくかが課題であった。
この中橋は、一連のプロジェクトの最初期にデザインしたもので、グランドデザインによって
形作られる新しいエリアをつなぎ、町に回遊性を生み出すことを意図している。また、親水性
を感じさせ、慰霊の空間となる下路と、日常的な往来とイベント開催等を想定した上路という
上下2つのデッキを設定した。

デザインを開始した時期から考えると、竣工まで丸6年が経過しており、土木構造物と建築物
の実現に必要なタイムスパンの違いを感じている。
この6年という期間を設計手法の進歩で見てみると、特に我々を取り巻く周辺環境が大きく変
わったことを感じている。
この橋は、性質の異なる町の二つの領域を繋ぐものとして古来より様々な場所で使われてき
た木の太鼓橋をイメージしてデザインされている。法令やバリアフリーを考慮しつつ太鼓橋
を作っていくという過程において、3Dモデルの活用は、設計の再初期化から不可欠なもので
あった。構造材の組み方だけでなく下部デッキの建築限界の確認や高欄支柱の割付等、デザ
インフェーズの多くでパラメトリクモデリングを使ったデザインを行っていた。一方、デザ
インしていた2014年~2015年にかけて初めて土木関連の各社とのやり取りを行たが3D
モデルを使った情報の共有は困難であった。当時、建設業界においてもCIMという言葉が盛ん
に取り上げられてきた時期で、東日本大震災の復旧にも活用されていると話題にもなっていた
現場レベルではまだまだ導入が進んでいない状況だったといえる。打ち合わせに際しては、
3Dモデルを渡しつつも、すべての情報を2D化して説明する必要があった。一方、現在はメー
カー各社から3Dモデルが提供されることも増えてきており、6年間という期間の中で3Dモデ
ルを使用した設計が、建築物だけではなく土木構造物の世界でもかなり浸透してきたことがこ
こからも感じられた。

実際に川の上に掛けられた橋を見てみるともともと3Dでデザインしていたこともありほぼ
想像通りのイメージとなっていたが、建築物にもまして、より大きなスケールの景観の中でど
ういた見え方になるのかということが極めて重要であることを改めて感じさせられた。昨今、
ドローンによる敷地状況の収集やそれを反映した敷地の3Dモデル化が可能になり、敷地情報
の取り扱いが以前よりもかなり容易になった。こういった動きは、計画の立案や工事シミュ
レーションという視点が中心にあると思われるが、様々な土木・建築の計画において、景観と
いう観点から、こういったデータをより上手く活用していくことが必要だろう。

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長