サステイナブルデザイン×コンピュータ
2021.01.26
パラメトリック・ボイス
明治大学 / 川島範久建築設計事務所 川島 範久
環境シミュレーションを活用することで、これからの環境時代に相応しい新たな建築デザイン
を生み出していけるのではないだろうか?
このような期待感が、私が大学で建築を学び始めた2000年代前半にはあった。エポックメイ
キングだったのは、2000年に竣工した伊東豊雄設計の「せんだいメディアテーク」だろう。
水中をゆらめく海草のような鋼管ラチスシェルのチューブ状柱による構造が特徴だが、これは
構造家の佐々木睦朗によるコンピュータを活用した構造解析のシミュレーション技術があった
からこそ実現可能だったと言えるだろう。さらにこの建築が予言的だったのは、このチューブ
は、構造であると同時に、階段やエレベーターといった人やモノの動線であり、ネットワーク
や空調などの設備配管・配線のルートであり、屋上からの自然採光と自然通風を促す装置でも
ある、というように「環境」を制御する装置としてもデザインされていた点だった。地球環境
危機の時代において、これからの建築デザインは構造だけでなく環境をも統合していく中で大
きく変わっていくのではないか。そして、コンピュータを用いた環境シミュレーション技術が
それを加速していくのではないか。
この建築観は大学時代からの恩師である難波和彦から多大な影響を受けたものだ。難波和彦は
サステイナブルデザインのために建築や都市を、物質性・エネルギー性・機能性・記号性の
4つの側面から捉える枠組として「建築の四層構造」を提案している。これは、ローマ時代の
建築家ウィトルウィウスによる建築の定義「強・用・美」という3つの要素に、これからのサ
ステイナブルな建築の条件として「エネルギー」を加えたものである(または、「強」を「物
質性」と「エネルギー性」に分けて捉えたと考えてもよいかもしれない)。「デザインはこの
4つを統合することである」という主張なのであるが、歴史的にみて、これまで特に建築の
「エネルギー性」に関する検証が不十分であり、コンピュータによる環境シミュレーション技
術の開発とその活用についてもこれからが本番という状況だった。
そこで、私は「コンピュータを用いた環境シミュレーション技術を活用してサステイナブルな
建築をデザインする」というテーマに可能性を感じ、その研究と実践をこれまで継続してきた。
このArchiFuture Webにおける私の連載では、このテーマに基づき、私がこれまでどのような
研究・実践をしてきたのか、そしてこれからの展望について、紹介していければと考えている。